全 情 報

ID番号 00036
事件名 仮処分控訴事件
いわゆる事件名 日伸運輸事件
争点
事案概要  被控訴人に対する解雇を思想信条に基づくもので無効であるとし、解雇後被控訴人の職場を含む営業の譲渡を受けた控訴会社の従業員たる地位の保全の仮処分その他を請求した事例。(認容)
参照法条 労働基準法3条,2章
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
労働契約(民事) / 労働契約の承継 / 営業譲渡
裁判年月日 1965年2月12日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和38年 (ネ) 1699 
裁判結果 棄却
出典 時報404号53頁
審級関係
評釈論文 下森定・労働経済旬報640号10頁/正田彬・法学研究〔慶応大学〕39巻8号109頁
判決理由 〔労基法の基本原則―均等待遇―信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
 被控訴人に対する右解雇は、表面上は被控訴人が年齢三〇歳を過ぎていること及び本採用になった場合の作業に従事することが危険であることを理由に三ケ月の試傭期間内に解雇したものであるが、その真相は、被控訴人が職場において労働組合の結成の必要を力説していることが現場監督のAの聞知するところとなり、調査の結果被控訴人が共産党員であることがわかり、被控訴人を職場に留めておくことは同会社にとって好ましくないものと信じ、本件解雇の手段に出たものと認められる。従って、右解雇は、被控訴人が共産党員であることを決定的理由としてなしたもの、即ち被控訴人の思想信条を決定的理由としてなしたものであって、労働基準法第三条に違反し無効であると認めるのが相当である。
 〔労働契約―労働契約の承継―営業譲渡〕
 ところで現代の企業においては、一定の物的施設とそこに配置される労務とは相結合して一の有機的組織体を構成し、その労働契約関係は使用者(企業主)が変更しても労務の内容に変更を生ずることなく、使用者の義務についてもその履行は企業そのものによって保障され、雇傭に伴う使用者と労働者との間の人的関係は使用者の個人的要素には影響されず、企業と労務者との関係と化しているから何等特別の変化を生じない。のみならず、企業はその存立のためにその組織内に配置された労務関係がそのまま継続することを要請する。かような事情は相応じて、企業の経営組織の変更を伴わないところの企業主体の交替を意味する如き営業譲渡の合意は、反対の特約がなされない限り、それに伴う労働契約関係を包括的に譲渡する合意を含むものと認められ、右契約が効力を生ずるためには労働者の同意を必要とせず、ただ、労働者は異議あるときは譲受人に対して即時解約ができるものと解するのが相当である。
 本件についてこれをみるに、本件営業譲渡は、前認定のとおり右譲渡の日新たに設立せられた控訴会社がB会社からその運輸部門に関する設備資材得意先等営業組織一切を譲受け控訴会社の取締役七名の内四名はB会社の取締役をも兼ね控訴会社の株式の内その六分の一はB会社が有する(右設立後B会社が控訴会社の全株式を所有していたこともあった)等企業主体が交替したとはいえ実質的には企業の経営組織の変更がなく、且つ、その従業員について控訴会社に承継させない旨の特段の合意があったことは認められないから、B会社と控訴会社間の右運輸部門の営業譲渡の合意はこれに伴う右運輸部門の全従業員の労働契約関係を包括的に譲渡する合意を含むものと認めるのが相当である。