全 情 報

ID番号 00058
事件名 採用取消処分取消等請求事例
いわゆる事件名 鹿島町事件
争点
事案概要  町長がなした職員としての不採用につき、既に採用行為がされており、その取消処分には重大明白な瑕疵があるとして、又予備的に、不採用には裁量権の濫用があるとして、職員としての地位の確認を、予備的に、不採用処分の取消等を求めた事例。
参照法条 国家公務員法36条,55条
体系項目 労働契約(民事) / 公務員の採用
裁判年月日 1980年11月20日
裁判所名 水戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (行ウ) 3 
裁判結果 一部認容 一部棄却 一部却下(控訴)
出典 時報999号118頁/労働判例355号49頁
審級関係
評釈論文
判決理由  職員の採用(任用)に当たり任命権者に裁量権のあることは明らかであるが、これは決して恣意的な採用(或は不採用)を許すものではなく、すべからく任命権者は国民ないし地方公共団体の住民のため、受験成績その他の能力の実証に基づいて直に有能な人材を選択、採用すべき責務を負っていることはいうまでもない。いわゆる成績主義(メリットシステム)または能力主義の原則は右任用の基準を示すものであって国家公務員法第三三条、地方公務員法第一五条に規定されているところであり、法は罰則まで設けて右基準の貫徹をはかっている(国家公務員法第一一〇条第一項第七号、地方公務員法第六一条第二号)。
 したがって、任命権者が職員の採用に当たり、法の要請する能力の実証に基づかず、或は他事考慮し、或は不正、不当な動機ないし目的をもって採否を決した場合等には、右行為(処分)は裁量の範囲を逸脱したか、もしくは裁量権の濫用として違法となり、取消訴訟の対象となる。
 これを本件についてみるに、前認定のとおり、原告は第二次試験において採用された一四名の者と少なくとも同程度の成績を得、被告町長も一旦は原告の採用を決意したのに、町職組の強硬な反対にあい(町職組の反対の理由が、「地元出身者を優先して採用すべきである」というものであるならば、それは成績主義を定める前記地方公務員法の規定を無視し、ひいては法の下の平等の原則にも反する不当なものであることはいうまでもない)、結局、他に特段の理由もないのに原告を採用しないことに決定したものであって、本件不採用処分には裁量の範囲を逸脱したか、もしくは裁量権を濫用した違法があるものといわなければならない。
 地方公務員法は、任用行為の方式(形式)について規定をおかず(国家公務員法も同様)、法律上は任用権者の意思表示が相手方に到達すれば足り、必ずしも辞令の交付などの行為を要するものではないところ(この点、要式行為である旨の被告らの主張は採用できない。)、地方公務員の任用行為は、その法的性質をどのように考えるにせよ、地方公務員たる地位の設定、変更を目的とする重要な法律行為であるから、その意思表示は明確になされなければならないと解される。ところが、前記認定事実からは、被告鹿島町企画室長が訴外Aに対し「原告の採用は決っている」旨何度か口頭で述べたことが認められ、あるいは、被告町長自身一旦は、原告の採用を決意したのではないかということが推認できるにとどまり、《証拠略》によると、企画室長は、町職員採用に関し、人員の調整の面から関与するものの、直接に採用に関与する立場にはなく、鹿島町職員の採用権限を有する者は被告町長であるから、原告についての採用行為は、未だなされていないものとみるのが相当である。