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ID番号 00159
事件名 貸与金返還請求事件
いわゆる事件名 河合楽器制作所事件
争点
事案概要  楽器制作会社が、自己の経営するピアノ調律技術者養成所を終了した労働者を雇用するに際し、養成所の授業料貸与金の返還をその退職まで猶予する旨の契約を結び、労働者の退職時に右契約に基づき貸与金の返還を求めた事例。第一審 請求認容、第二審 控訴棄却(請求認容)
参照法条 労働基準法14条,16条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の期間
労働契約(民事) / 賠償予定
裁判年月日 1977年12月23日
裁判所名 静岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (レ) 29 
裁判結果 棄却
出典 労働判例295号60頁
審級関係 一審/浜松簡/昭51.10.27/昭和50年(ハ)122号
評釈論文
判決理由  二 控訴人らは、被控訴会社との貸与金契約は、労働基準法第一四条・第一六条に違反し、公序良俗に反するから無効であると主張する。思うに、労働基準法第一四条が一年を越える期間の労働契約の締結を禁止しているのは、労働契約に長期間の契約期間を認めることは、人身拘束や強制労働にわたる虞れがあり、労働者の退職の自由を不当に制限する弊害が生ずるからであり、同法第一六条が労働契約の不履行について違約金を定め又は損害賠償額を予定することを禁止しているのは、労使関係において違約金等の定めをすることが、労働者の自由意思を不当に拘束して労働者を使用者に隷属せしめ、退職の自由を奪うことになる危険性を有しているからである。従って、被控訴会社との貸与金契約が労働基準法第一四条・第一六条に違反するかどうかは、右貸与金契約が存在するために労働者に一年以上にわたる労働関係の継続を強要し、退職の自由を不当に制限する危険性を有しているか否かにより判断すべきである。
 (中 略)
 このように、被控訴会社との貸与金契約は、控訴人X1及び同X2が養成所に入所する際純然たる貸借契約として定められたものであり、同人らが養成所を卒業して被控訴会社へ入社する際締結した雇傭契約とは別箇の契約として締結されたものであること、研究生は、養成所卒業後被控訴会社へ就職するか否かは自由であり、被控訴会社へ就職すれば退職時まで貸与金一二万円の返済が猶予されていたに過ぎないこと、養成所の授業料が月額一万円(合計一二万円)であることも特に不合理な金額とはいえないところ、控訴人X1及び同X2は貸与金一二万円を返済すれば何時でも退職が可能であり、現に同人らの養成所時代の同期生の多くが貸与金一二万円を返済して被控訴会社から退職していることに照らせば、控訴人X1及び同X2が、貸与金契約が存在するために一年以上にわたる労働関係の継続を不当に強要され、被控訴会社に隷属せしめられて退職の自由を不当に制限されたとまでは認め難い。してみれば、被控訴会社との貸与金契約が労働基準法第一四条・第一六条に違反し、公序良俗に反するから無効である旨の控訴人らの抗弁は、理由がないものというべきである。