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ID番号 00171
事件名 従業員地位確認請求事件
いわゆる事件名 電電公社事件
争点
事案概要  電電公社の社員公募に応じ採用内定の通知を受けた後、反戦青年委員会に属し無届けデモを指揮して起訴猶予処分を受けた経歴を有し、公社社員見習いとしての適格性を欠くという理由で採用内定を取消された労働者が、電々公社に対して従業員たる地位の確認を求めた事例。
参照法条 民法623条,627条
体系項目 労働契約(民事) / 採用内定 / 法的性質
労働契約(民事) / 採用内定 / 取消し
裁判年月日 1979年2月27日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (ネ) 770 
裁判結果 (上告)
出典 労働民例集30巻1号156頁/時報928号107頁/タイムズ386号126頁/労働判例315号48頁/訟務月報25巻5号1326頁
審級関係 上告審/00175/最高二小/昭55. 5.30/昭和54年(オ)580号
評釈論文 稲垣喬・昭和54年行政関係判例解説110頁
判決理由  〔労働契約―採用内定―法的性質〕
 被控訴人と控訴人との間における見習社員雇用契約締結への折衝は、これを法律的に分析してみると、被控訴人が昭和四四年八月に発表した「社員募集案内」による公募が、契約の申込の誘引に該り、控訴人のこれに対する応募と、それに引続く同年九月の採用試験への参加、最終学校の成績証明書及び卒業証明書・戸籍抄本・健康診断書の提出、貸与被服号型調査表の提出、入社懇談会への出席と再度の健康診断の受診等の諸行為が、引続く一連の行為として、一括して、契約の申込に該り、同年四月一日になさるべきであった被控訴人の控訴人に対する辞令書の交付が、契約の承諾に該当するものであって、前記認定のその余の諸事実・諸行為は、右雇用契約の締結上、法律的にみて格別の意味を有するものではないといわなければならない。ところで、本件採用通知なるものは、採用規程や雇用等取扱通達にも何ら規定されていないものであるが、被控訴人と控訴人との前記雇用契約締結をめざす折衝が、右のとおり、種々の手続を必要とし、段階的に進展するものであった関係上、被控訴人において、控訴人が採用試験に合格し、特別な事情がない限り、被控訴人において控訴人を見習社員として雇用することを内部的に決定した段階において、その後の手続を円滑に進展させるため、便宜上、控訴人に対し右事実を告知するためになされたものに過ぎず、従って、それは、唯単に被控訴人の内部において控訴人を被控訴人の見習社員として雇用することが決定されたということを事実上通知したというものであるから、それによって、被控訴人と控訴人との間に労働契約的な関係を生ぜしめるものではないといわなければならない。
 (中 略)
 そうすると、本件採用通知は、被控訴人において、控訴人を被控訴人の見習社員として採用することを内定したという事実を一方的に控訴人に告知したものであって、その法律上の性質は観念の通知であるというべく、それによっては、控訴人と被控訴人との間に見習社員としての雇用契約が締結されたとするに由なく、また、それにより、始期付・解除条件付見習社員契約が締結されたとか、申込撤回権留保付見習社員契約が締結されたとか断ずることができないことも、本件採用通知の性質が右のようなものであって、未だ勤務条件も具体的個別的に確定されておらず、何よりも、その間、被控訴人において、控訴人との間で雇用契約を締結するという意思、換言すると、控訴人の契約の申込に対する承諾の意思表示をなす意思があったと認めることができない点からして、明らかであるといわなければならない。
 〔労働契約―採用内定―取消し〕
 採用の内定という被控訴人の内部における措置であっても、それが対外的に控訴人に対して通知された以上、控訴人としては、特別な事情がない限り、所定期日である昭和四五年四月一日の到来により、被控訴人の見習社員になり得るものであるという期待を事実上抱くに至るものであるから、被控訴人においても、これが採用の内定を取消すことを相当とする特別な事情がない限り、その取消をなし得ないものであるとするのが、その場合における双方当事者間に作用する信義則上からして、当然であるといわなければならない。ところで、右にいう特別な事情とは、本件採用通知に示されていた「健康診断による異常の発見」もその一であると思料されるが、右は被控訴人において本件採用内定を取消し得る場合の一として、最も一般的かつ比較的多数と予想されるものを例示したに過ぎないのであって、被控訴人が本件採用内定を取消し得る場合を右の場合のみに限定する趣旨で表示したものではないと解すべきであり、被控訴人としては、採用内定を取消すことが相当である場合、例えば、採用内定通知後において、採用内定者につき、公社の見習社員として不適格であると認められる事由が被控訴人にはじめて判明した場合等においては、その裁量により、当該採用内定を取消し得るものといわなければならない。
 被控訴人において本件採用内定の取消をしたのは、控訴人が、反戦委に所属し、その指導的地位にある者の行動として、公安条例等違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分をうける程度の違法行為をしたことが決定的な原因であったところ、重要な公共的業務を担当し、その従業員は、法令及び諸規則を遵守して、誠実な労務の提供をなすべきものであり、罰則の適用については法令により公務に従事する者とみなされているほどである関係上、一般民間企業以上に業務秩序の厳正が要請される被控訴人(この点については当裁判所に明らかである)において、右の如き違法行為を積極的に敢行した控訴人を被控訴人の見習社員として雇用することは相当でなく、控訴人は被控訴人の見習社員としての適格性を欠くと判断し、これが採用内定の取消をしたことは、その事実関係の認定について誤りがなく、その判断も、社会通念上、被控訴人が有するその点の判断についての裁量権の範囲を逸脱したものであるとは到底いえないから、(中 略)。
 右採用内定の取消は、取消権の濫用によるものとはいえず、また、それは、控訴人の思想・信条を理由としてなされたものでもなければ、集会・結社の自由を侵害するものでもないから、それにつき、憲法第一四条ないし第二一条違反とか、労基法第三条違反とかを考える余地もないといわなければならず、本件採用取消通知による採用内定の取消は、有効であるといわざるを得ない。