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ID番号 00188
事件名 労働契約関係存在確認請求各控訴併合事件
いわゆる事件名 三菱樹脂事件
争点
事案概要  入社試験に際し事実を秘匿し虚偽の申告をしたことを理由に本採用を拒否された試用期間中の従業員が、右本採用拒否は思想、信条を理由とし無効であるとして労働契約関係の存在確認を求めた事件の控訴審。(一審 被告の控訴棄却、一審 原告敗訴部分取消し、労働者勝訴)
参照法条 日本国憲法14条,19条
労働基準法3条,2章
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 本採用拒否・解雇
裁判年月日 1968年6月12日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (ネ) 1590 
昭和42年 (ネ) 1682 
裁判結果
出典 労働民例集19巻3号791頁/時報523号19頁/東高民時報19巻6号126頁/タイムズ223号105頁
審級関係 上告審/00044/最高大/昭48.12.12/昭和43年(オ)932号
評釈論文 浦田賢治・昭和43年度重要判例解説〔ジュリスト433号〕9頁/桑原昌宏・判例タイムズ226号57頁
判決理由  ところで、第一審被告は、第一審原告が、入社試験に応募した際、第一審被告主張の事実を秘匿する虚偽の申告をしたから、本件雇傭契約を解約し、または、詐欺による意思表示として取消す旨主張するけれども、右秘匿し、虚偽の申告をしたと主張する事実が第一審原告の政治的思想・信条に関係のある事実であることは明らかであるから、これを入社試験の際秘匿することは許さるべきであり、従って、これを秘匿し、虚偽の申告をしたからといって詐欺にも該当しないし、第一審被告を求める事項について虚偽の申告をした場合は採用を取消すべき旨予告されていても、これを理由に雇傭契約を解約することもできないものと解するのが相当である。すなわち、人の思想・信条は身体と同様本来自由であるべきものであり、その自由は憲法第一九条の保障するところでもあるから、企業が労働者を雇傭する場合等、一方が他方より優越した地位にある場合に、その意に反してみだりにこれを侵してはならないことは明白というべく、人が信条によって差別されないことは憲法第一四条、労働基準法第三条の定めるところであるが、通常の商事会社においては、新聞社、学校等特殊の政治思想的環境にあるものと異なり、特定の政治的思想・信条を有する者を雇傭することが、その思想・信条のゆえに直ちに、事業の遂行に支障をきたすとは考えられないから、その入社試験の際、応募者にその政治的思想・信条に関係のある事項を申告させることは、公序良俗に反し、許されず、応募者がこれを秘匿しても、不利益を課し得ないものと解すべきである。
 第一審被告が雇傭契約締結の自由を有することは疑いないけれども、このことは入社試験の際に前記のような事項の申告を求めることが憲法その他の前記各法条の精神に照らして違法の評価を受けることと相容れないものではない。
 そうしてみれば、本件解約(本採用拒否)の意思表示も、詐欺による取消の意思表示も無効というべく、他に不適格事由(第一審原告が過去に過激な学生運動をしたことがあったとしても、そのことが直ちに管理職要員としての不適格事由となるものとは認められない)について主張も立証もない本件においては、本件雇傭契約は依然存続し、昭和三八年七月一日以降は一般の雇傭契約となったものと解するほかはない。