全 情 報

ID番号 00229
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 秋北バス事件
争点
事案概要  就業規則を改正して「主任以上の職にある者」に対しても満五五歳で定年とし解職する旨定めたのに対し申請人らが右就業規則の定年制条項の効力停止の仮処分を申請した事例の差戻し審。(申請却下)
参照法条 労働基準法89条,93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 定年制
退職 / 定年・再雇用
裁判年月日 1960年1月25日
裁判所名 秋田地大館支
裁判形式 判決
事件番号 昭和33年 (ヨ) 1 
裁判結果
出典 労働民例集11巻1号43頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔就業規則―就業規則の一方的不利益変更―定年制〕
 右の改正就業規則が実施された昭和三十二年四月一日当時、申請人等は既に新たに定められた停年である五十五歳に達していたことが認められ、従って右改正就業規則が適用されることにより申請人等は直ちに解雇されることになって申請人等にとつて不利益なものであることは明かであるが、第一にかような場合にも後記の如く労働基準法第二十条の解雇の予告をなすべきものであるからこの予告によって不充分ではあるが即時解雇にともなう不利益を除くことができるし、更に本件においては、成立に争のない乙第六号証の一、二、第七号証の一、二及び差戻前の第一審における証人A、Bの各証言によれば、被申請会社は右改正就業規則第五十七条を適用して、申請人等を解雇した翌日である昭和三十二年五月二十六日から申請人等を被申請会社嘱託として採用したものであることが認められるから、一応申請人等の解雇に伴う不利益を救済する措置が採られていたということができるからこの点についても本件就業規則改正は申請人等の利益を著しく害する不当なものとはいえない。なお、申請人等は本件就業規則改正は、改正に藉口して申請人等を被申請会社から駆逐せんとする謀略であると主張するが、本件就業規則改正が申請人等の放逐を目的としてなされたというような事情についての疏明はないから、本件就業規則改正が被申請会社の権利乱用であるということはできない。
 〔退職―定年・再雇用〕
 およそ人間の労働力には、年令に基く自然的限界があるのであって、所謂停年制なるものはこの点に根拠を有するのである。従って本件における如く、従来停年制のなかった労働者に対して使用者が就業規則を以て新たに停年制を設けることは、それが業務の性質に応じて、人間の精神的、肉体的能力を適当に考慮し、社会通念上是認されうる限度においてなされるかぎり、使用者の経営権の作用として一方的にこれをなしうるものと解すべきである。本件について、これをみるに所謂「主任以上の職にある者」は被申請会社の従業員を監督する地位にある者であって、被申請会社の自動車による旅客運輸の業務に労務を提供して「直接」労働に従事する者ではないのであるが、かような所謂事務職員について停年を五十五歳と定めることは我国産業界においては広く一般的に行われておって、社会通念上是認されうるところであり、又、人間の精神的、肉体的能力の限度についても適当な考慮を払ったものと言うことができる。
 (中 略)
 事情についての疏明はないから、本件就業規則改正が被申請会社の権利乱用であるということはできない。従って、申請人等「主任以上の職にある者」に対して新たに五十五歳を停年と定めた改正就業規則第五十七条は労働者たる申請人等の同意を要せず有効なものであって、申請人等に対してその効力を生ずるものと言わねばならない。