全 情 報

ID番号 00237
事件名 地位保全・金員支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 宮田産業事件
争点
事案概要  定年年齢到達後も雇用されていた申請人が、非能率等を理由に解雇されたため、地位保全と賃金支払の仮処分を申請した事例。(一部認容)
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 退職 / 定年・再雇用
裁判年月日 1982年11月1日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和57年 (ヨ) 246 
裁判結果 一部認容
出典 労経速報1138号16頁/労働判例399号37頁
審級関係
評釈論文
判決理由  会社の就業規則一三条本文の規定は、その文言内容に徴すれば、労働者が定年年令に達したことによって雇用関係が自動的に消滅するいわゆる定年退職制を定めたものと解される。しかるに、申請人は、前記認定のように満五五才の定年年令に達した後も退職することなく引き続き会社に勤務してきているので、本件定年後の関係の法的性質が問題になるが、これについては、定年が延長されたのか、再雇用契約が締結されたのか、あるいは嘱託契約が締結されたのか、争いがあるので、以下、この点について判断する。
 (中 略)
 右認定事実からすると、申請人が満五五才の定年年令に達した当時、会社においては申請人を定年退職させるようなことはそもそも念頭になかったことが明らかであるばかりでなく、前記認定のとおり、申請人が過去一二年間も樹脂課長の要職を務めるかたわら、会社の倉庫に居住して倉庫番を兼ねていたことなどからすると、当時、申請人は、樹脂課の業務に精通・習熟し、会社の厚い信任を受けていたことが十分に窺われ、したがって会社としては、申請人に匹敵する後任者を確保・補充することはきわめて困難な状況にあったものと推認される。
 もっとも、前記認定事実によると、申請人は、満五五才の定年日経過後の昭和四九年四月九日会社から、社員退職手当規程に基づき右定年日までの勤続年数を算定の基礎として計算した金員の支払を受けているが、右金員の授受は、申請人の右定年日数約二か月半経過したのちに行われていること、しかも、それは、当時借入金債務の返済に追われていた申請人の生活の困窮状態を救うため、後日正式に退職したときに清算されることを予定した退職金の前払の趣旨でなされたものであること等に徴すると、右金員授受の事実をもって、申請人が満五五才の定年年令に達した際一たん退職したとの事実を推認する根拠とはなし難い。
 以上の認定判断に照らして考えると、本件定年後の関係は、申請人の定年退職後当事者間において黙示的に新たな雇用契約(ちなみに、申請人の勤務態様が定年の前後を通じて全く変動がないことからすれば、これを嘱託契約とみることはできない。)を締結したものとみるよりも、むしろ申請人は満五五才の定年年令に達した頃会社から、黙示的に業務上の都合により特に必要があると認められて期間の定めなく定年を延長されたものとみるのが相当である。
 そうすると、本件通告は、被申請人が第一次的に主張するように嘱託契約を解約告知する旨の意思表示ではなく、まさに右通告に明記されているとおり、定年を延長された申請人を解雇する旨の意思表示(本件解雇)であると認めざるを得ない。