全 情 報

ID番号 00259
事件名 懲戒処分無効確認等請求事件
いわゆる事件名 中国電力事件
争点
事案概要  電力会社の従業員が就業時間外に職場外で同社の計画している原発建設に反対するビラを配布したことが同社の社会的信用を失墜させ業務を妨害するものであるとして減給又は休職の懲戒処分がなされたためその効力が争われた事例(棄却)。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働義務の内容
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
裁判年月日 1985年2月1日
裁判所名 山口地
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (ワ) 103 
裁判結果 棄却
出典 時報1152号166頁/タイムズ560号223頁/労働判例447号21頁/労経速報1211号3頁
審級関係
評釈論文 桂秀次郎、本田兆司・労働法律旬報1124号30~33頁1985年7月25日
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働義務の内容〕
 1 労働者は、使用者と労働契約を締結することにより、使用者に対し労務提供義務を負うとともに企業秩序を遵守すべき義務をも負うものというべきであるから、労働者において企業秩序違反のあるときは、その使用者は企業秩序を維持して、円滑な企業運営を図るため、当該労働者に対し懲戒処分をなし得るものである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
 そして労働者の職場外でなされた職務遂行と無関係な行為であっても、それが企業の円滑な運営を阻害するおそれがあるなど企業秩序に関係を有するものであれば、やはり懲戒処分の対象となりうるものと解すべきであるから、前記文書活動においても、それが正当な組合活動の領域を超えて企業秩序遵守義務に違反するならば、職場外で、労務提供と関係なく行なわれたものであっても、そのことを理由に懲戒処分を免れうるものではない。したがって、本件ビラ配布行為が就業時間外に職場外で行なわれたものであることから直ちに右行為には就業規則の適用はなく、懲戒処分の対象とならないとする原告らの論旨には、当裁判所は左袒できない。
 (中略)
 他方労働組合の組合員が、その生命、身体を守り、経済的地位の向上を図る目的で、その使用者の経営方針や企業活動を批判することはもとより正当な組合活動の範囲内に属するものであり、その文書活動もそれが右の目的の範囲内にある限りは、文書の表現がやや激しかったり、多少の誇張が含まれているとしても、なお正当な組合活動といえるのであって、そのために使用者の実態が公表されて、仮に不利益を受けたり、その社会的信用の低下することがあっても、使用者としてはこれを受忍すべきものと考えるが、組合活動としてなされる文書活動であっても、故意に虚偽の事実や誤解を与えかねない事実を記載して、被告の社会的に容認されるべき正当な利益を不当に侵害したり、名誉、信用を毀損、失墜させたり、あるいは企業の円滑な運営に支障を来すことがあれば、それは、もはや正当な組合活動の範囲を逸脱するものであり、前記企業秩序遵守義務に反するものであるから、そのような文書活動を企画、指導、実行した組合員が就業規則に照らし、使用者からその責任を問われてもやむをえないものといわなければならない。
 (中略)
 しかしながら、右で述べた被告の被傭者である原告らの就業時間外に職場外で行なう文書活動の自由が、被告との間において、常に一般労働者、一住民のそれと同様の法的評価を受けることを意味するものではない。本件ビラの作成、配布が前記目的をもってなされたものであっても、本件のように故意に虚偽の事実を記載したビラを作成配布して被告の企業活動を妨害する行為が憲法一九条、二一条の保障の埓外にあることはいうまでもなく、したがって被告において右行為が企業秩序に違反することを理由として、原告らに制裁を課すことは何ら憲法の右各条項並びに民法九〇条に反するものといえないことは明らかである。