全 情 報

ID番号 00286
事件名 転勤命令効力停止仮処分申請事件
いわゆる事件名 小野田化学工業事件
争点
事案概要  門司工場事務課から名古屋営業所への転勤を命じられた、地元採用の労働者が、転勤命令の効力停止の仮処分を申請した事例。(申請却下)
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
裁判年月日 1975年7月1日
裁判所名 福岡地小倉支
裁判形式 決定
事件番号 昭和49年 (ヨ) 84 
裁判結果 却下
出典 労働判例234号47頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣―配転命令の根拠、配転命令権の濫用〕
 労働契約中に、労働者は使用者の業務上の必要性があれば転勤に応ずる旨の条件が含まれている場合でも、業務上の必要性に比較して転勤による当該労働者の蒙る損害が著しいときには、当該転勤命令が人事権の濫用として無効となる場合があると解される。
 (中 略)
 以上で明らかなように、会社には申請人を名古屋営業所へ転勤させなければならない業務上の必要性があるうえに、申請人には右命令に従うことによってその生活関係が根底から覆されるような事情はないのであるから、本件転勤命令が人事権の濫用であるとは到底いい難く、この点に関する申請人の主張も採用できない。
〔配転・出向・転籍・派遣―配転命令権の限界〕
 一般に労働の場所は労働者の生活に対して重大な影響を与えるものであるから、賃金や労働時間などと共に重要な労働条件にあたり、労働契約の要素をなすと考えられる。したがって、一定の場所で勤務している労働者をその同意なしに一方的に他の場所に転勤させる権限が使用者に当然あるものではなく、労働の場所についての変更が認められるか否かは、その労働者と使用者との労働契約によって判断すべきであり、労働契約の締結される際、特にこれを特定する旨の合意がなされていない場合は、結局契約内容は、同時期あるいは同種形態の採用者との比較、就業規則、慣行、労働協約上の定め等を基準として、当事者の意思を確定するのが妥当と解せられるところ、本件においては、申請人と会社との間に、勤務地の特定につき明示の合意がなされたことを認めるべき疎明がないので、右に例示した就業規則、慣行等に照らして、申請人につき勤務地の特定がなされたものと解し得るかどうかを検討する。
 (中 略)
 会社においては、従業員と会社との間の労働契約の内容を律する就業規則は申請人入社当時から現在まで会社一本で且つ同一であり、結局会社、従業員間の労働契約は、会社的に就業規則によって律せられているところ、右規則によれば、申請人の主張するような本社及び営業所採用、工場採用という異った採用形態は存在せず、また勤労条件その他の労働条件は全て全社同一で、従業員間に違いはない。
 (中 略)
 就業規則第三二条第一項によれば、会社は業務の都合で社員に転勤を命ずることがあり、同第二項によれば、社員は右命令に従うべき義務を負っており、しかも申請人は採用選考の際、会社に対し入社希望者身上申告書を提出して、会社何れの事業場に転勤しても差支えない旨上申している。
 (中 略)
 右一応認定したところによれば、申請人と会社間の労働契約上は、申請人の就労場所を門司工場に限定する旨の合意がなされていないことは明らかである。