全 情 報

ID番号 00287
事件名 解雇無効等確認請求事件
いわゆる事件名 国際航業事件
争点
事案概要  配転命令を拒否して従前の職場で就労を続けたこと、始末書の提出を拒否したこと等を理由として解雇された組合員らが、雇用契約上の地位を有することの確認および賃金の支払を請求した事例。(請求認容)
参照法条 労働基準法2章,89条1項9号
労働基準法施行規則22条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
労働時間(民事) / 時間外・休日労働 / 時間外・休日労働の義務
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 始末書不提出
裁判年月日 1975年7月17日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ワ) 1399 
裁判結果 認容
出典 労働判例235号40頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔配転・出向・転籍・派遣―配転命令の根拠〕
 原告らに対する前記配置転換命令は、会社大阪支店が、その業務上の必要に基づいて命じたものと認められ、しかも、その配置転換先は現場作業があるとしても従来原告らが従事していた職種と同一の測量に関する業務をなすべき職場であり、大阪支店測量部内における課の移動にすぎず、勤務場所の変更をきたすものではないから、会社と原告らとの間の労働契約の内容に変更を加えるものとはいえない。右の程度の職務内容の変更は右労働契約によって予め予定されている範囲内のものであって、使用者の裁量に委ねられた範囲内のものであり、労働者からその都度同意を得る必要はないものというべきである。
 (中 略)
 しかるに原告らはいずれも右配置転換命令に従わず、昭和四三年九月二五日から同年一〇月一五日までの間新職場において就労せず、旧職場に出勤してほしいままに他の課員に指示されていた業務を行ない、同職場の課長らの注意にも従わなかったものであって、原告らの右行為は、会社の職場秩序を乱したものというべきであって、同行為によって会社に業務上の支障が具体的に生じたとの点についての立証をまつまでもなく、(証拠略)により認められる会社就業規則九三条四号「濫りに越権行為をなし、または職場の規律を無視して会社の秩序を乱した場合」に該当し減給の事由に当ると認められるから、同行為に対してなされた本件減給処分は原告らいずれに対するものも正当というべきである。
 〔労働時間―時間外・休日労働―時間外・休日労働の義務〕
 残業は本来労働基準法の制限内で、使用者と労働者の間に合意がある場合にかぎりなしうるものであって労働者が拒むかぎり、使用者はこれを強制できないものである。(労働基準法施行規則二二条は、労働者が出張等によって事業場外で労働する場合で、労働時間を算定し難い場合には通常の労働時間労働したものとみなす旨規定しているが、同条の趣旨からして、現地作業において八時間以上の労働を当然の前提としている本件のような場合においても労働時間を算定し難い場合として労働者に対し更に時間外労働を義務づけるものでなく、〈証拠略〉によれば、会社就業規則三一条において従業員が出張その他事業場外で労働した場合は普通勤務の労働時間労働したものとみなす旨定められているが、この規定の趣旨も右労基法施行規則二二条の趣旨を出るものでなく、また就業規則によって労働者に時間外労働を義務づけることはできないというべきである)。したがって、原告Xが出張先での残業である整理作業を拒否したことはあながち不当であるということはできず、それゆえ、右整理作業拒否によって出張による業務の報告が遅れたことも、一方的に同原告の責任に帰するのは相当ではなく、また右業務報告の遅れによって業務上重大な支障を生ぜしめたと認めるに足る証拠もない。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―始末書不提出〕
 既に懲戒処分によって責任を追及された右事実をもって、更に後に懲戒解雇ないしこれに代るべき普通解雇の事由とすることは、原告らが同一の事由について再度その責任を追及され、二重の不利益を受けるという結果となるわけであり、このようなことは、懲戒が労働者に対する制裁であり不利益処分であることからして許されないものと解するのが相当である。右配置転換命令拒否をもって本件解雇事由とするとの被告の主張は失当である。
 (中 略)
 労働者は雇傭契約に基づいて使用者の指揮、監督に従い労務を提供する義務を負っているが、同時に労使関係においても個人の意思は最大限に尊重されるべきであるところ、始末書の提出命令の強制は右の法理念に反するというべきであり、始末書の提出命令は、それを業務上の指示命令としても、その拒否に対して懲戒処分をもって臨むことは相当でなく、原告らの始末書提出拒否をもって本件解雇の事由とするのは相当でないというべきである。