全 情 報

ID番号 00290
事件名 配転命令効力停止仮処分申請事件
いわゆる事件名 武田薬品工業事件
争点
事案概要  薬品会社の中央研究所から営業部へ配転された技能職員が、研究所職員として取扱うことを求める仮処分を申請した事例。(申請却下)
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
裁判年月日 1976年2月7日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和48年 (ヨ) 3595 
裁判結果 却下
出典 労働判例245号45頁
審級関係
評釈論文
判決理由  以上認定の各事実によれば本件配転は会社が昭和四七年以降進めてきた研究部門の人員削減、営業部門ヘの重点的配置方針の一環としてなされた人事異動の一部であって、剤研における処遇上頭打の状態に達していた申請人を他部門に移して昇進の道を開かせようとの配慮から営業職とはいっても純然たる営業マンではなく従来の業務との関連性の認められるテクニカルサービスマンとしてその家庭事情をも斟酌して決定されたものであって、昭和四八年当時会社のおかれた状況下においては右の一般的人事異動方針の必要性は認められ、またその関連人事異動の一部として申請人を人選したことの合理性も一応認められるといわざるをえない。
 (中 略)
 以上の次第であって本件配転命令の決定的原因は申請人の思想信条それ自体にはなく会社の合理性をもった業務上の必要性にあったといわざるをえない。
 しかし労働契約において職種特定の合意が成立しているとみうるのは自動車運転手、看護婦等の様に一定の技能、技術、資格を有することが雇傭契約の条件になっている場合、あるいはその職場において規定若しくは慣例上それらの者を特別の職種としている場合は別として単に一定期間同一の職種についていたというだけでは職種が特定しているとはいえないと解するのが相当であるところ、疎明によっても会社申請人間に右の職種特定の合意が成立したことの証拠はなく却って会社の社員就業規程第一〇三条には、「社員には業務の都合により異動を命ずる。前項の異動とは所属事業場所属部、課、係等の変更若しくは諸官庁、関係会社等えの出向又はそれらからの復帰をいう。」との規定があり、会社、組合間に締結された労働協約においても組合はその二〇七条で各組合役員(本部支部三役、執行委員、会計監査)については事前に協議しその諒解を得るとする外、二〇五条で会社の組合員に対する任免、異動を認めていて規定上は会社に包括的な人事権がある様に定められてをり、事実上も会社は医薬部門から出発して之に関連する周辺部門として食品添加物、化学品等の新規事業部門えと事業範囲を拡大してきた経緯からして各部門間の人事交流の必要があったところから自動車運転手、タイピスト、看護婦等特定の業務にのみ従事する者を除き職種を特定して従業員を雇傭したことはなく右の各部門間の異動は頻繁に行われてきたし、担当期間技能職の業務に従事してから営業や事務関係業務に変った例も相当数あること等の各事実が一応認められるのであって、右事実からすれば申請人会社間の雇傭契約においては当初から職種特定の合意があったと認め難いのみならず黙示の職種特定の合意の成立も認め難く申請人は会社の前記包括的人事権の行使に従う義務があるといわざるをえず、本件においては技能職から営業職への変更に加えて医薬品関係から食品営業関係えの変更が重っている為変更の程度が大であるがだからと言ってその故に本件配転命令が労働契約に違反するということはできない。思うに従業員の配置転換はそれが労働契約、労働協約、就業規則その他労働関係法令に反しない限り人事権の行使として原則として使用者の裁量に委ねられているものであるが、只それが使用者の恣意により合理的必要がなくてなされた場合、あるいは他の意図を以て本来考慮に入れるべきでない事項を考慮に入れてなされた場合には人事権を濫用したものとして当該配転は無効となるものと解すべきところ、本件配転が合理性をもった業務上の必要性に基づくもので差別扱や見せしめ的人事とは認め難いこと、および業種の変更(当然に業務内容の変更を含む。)も従業員として受忍すべき包括的人事権の行使の範囲内のものであることはさきに説示したとおりであり、申請人が配転後の業務につくにおいては通勤に多少の時間がとられることと業務の性質上出張が多少多くなることが疎明されるが新旧両業務とも大阪市内のさして離れていない場所での勤務で通勤にさしたる苦痛を感ずるという程でもないし出張が多少あるといっても申請人の活動に取立てて支障を来す程のものとも認め難いのでその程度の相違は何ら「重大な労働条件の変更」というをえないし、申請人が入社以来一三年余研究補助業務に従事してきた関係上テクニカルサービスマンとはいえ営業関係業務に変ることに不安を感ずるであろうことも推認するに難くないがしかしテクニカルサービスマンの業務も誰かが担当しなければならないものであってみれば申請人に之が命ぜられたからといってその為に申請人の人格が著るしく傷つけられたとはいえない。