全 情 報

ID番号 00301
事件名 仮の地位を定める仮処分申請事件
いわゆる事件名 ニチバン事件
争点
事案概要  愛知県の安城工場における製造作業職から鹿児島出張所等における販売職への配転命令を受けた労働者が、勤務場所を安城工場製造課とすることを仮に定めるように求めた事例。(申請一部認容)
参照法条 労働基準法2章
労働組合法16条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
裁判年月日 1978年3月31日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 決定
事件番号 昭和52年 (ヨ) 1941 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例298号43頁/労経速報992号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由  (2)以上に認定した事実によれば、申請人らは、入社以来給与規定上作業職に属し、現場作業を担当して来たことは明らかであるが、就業規則上は、別段作業職という職種はないことと、入社時の労働契約書からすれば、申請人らが、入社に際し、作業職という職種を特定して労働契約を結んだものとは認められないから、申請人らは、就業規則上職種、職場の変更権を会社に委ねているものと解される。
 しかし、申請人らの殆んどが高校の技術科を卒業していること、入社以来一貫して給与規定上作業職として現場作業を担当していること及びいわゆる本社採用者でなく、事業所採用者であることからすれば、特別事情なき限りは、安城工場における作業職としての稼働が労使間に予定されているものというべく、このような申請人らに対し、職種、職場の変更を伴う配転命令を発するについては、それが申請人らの生活関係に重大な影響を与える点にかんがみ、労使の信義則に照らし、当然に合理的制約が存し、その制約とは、業務上の必要性、配転基準の合理性、人選の妥当性の有無ないし、業務上の必要性の程度と、申請人らの生活関係に及ぼす影響の程度との比較較量により判断さるべきであり、この合理的制約をこえると認められる配転命令は、労働契約上会社に委ねられた人事権のらん用として無効というべきである。
 (中 略)
 (2)以上に認定した事実によれば、会社のした今次配転は、経営不況下にありながら、再建協定により完全雇用を組合に約した会社が、生産現場の人員を縮少し、余剰人員を販売部門に向けることにより生産コストの減少と、かねて販売利益の拡大を企図し、組合とも協議の上決定した四次合理化計画の一環としてなされたもので、誠にやむを得ない緊急の業務上の必要性に基づくものであり、人選基準も十分に合理性が認められ、かつ、申請人らは、いずれも配転先近辺の出身で、いわゆる地域の特性を十分に理解している筈であり、加えて申請人らの個人的家庭事情も十分に考慮されていることが認められるから、残る問題は、販売適性ないしその可能性の存否と組合運営上の支障の有無ないしその程度である。
 (販売適性について)
 疎明資料特に申請人ら審尋の結果によれば、申請人Xを除くその余の申請人については、販売適性ないしその可能性の存することが認められるが、申請人Xについては、性格が内気で対人的折衝が不得手であり、加えて本人は販売部門でセールス活動をする意欲が全くなく、強いて配転されれば、退職せざるを得ないと覚悟していることが認められ、他方疎明資料によれば、鹿児島出張所における新職務の内容は、その目標を、代理店システムを尊重しつつも最終消費者に近いところで需要の拡大、市場の情報を収集し、以って末端の販売網を拡大すること(いわゆる市場深耕作戦)に置き、具体的には勤務時間中主として小売店ないし販売代理店を直接訪問してセールス活動に従事するいわゆるセールスマンであり、昭和五二年一一月二八日付の会社の中期経営計画によれば、各出張所毎に売上目標を設定し、各販売員毎にノルマを設定するというものであることが認められるから、申請人Xがこのような新職務に従事することは著しく苦痛であろうことは容易に推認できるから、いかに同人が鹿児島県の出身で鹿児島弁を解するとしても、同人の性格適性を無視した本件配転は人選の妥当性を著しく欠くというべきである。
 (中 略)
 以上に説示したところからすれば、申請人Xに対する本件配転命令は同人の性格適性を無視している点において人選の妥当性を欠き、労働契約上会社に委ねられた人事権を濫用するものであり、かつ、労使協議においてこのような人選を会社が固執し、組合及び本人の正当な要求を拒否したものとして、誠実な協議をつくしたとは言えず一一・三〇覚書による労働協約に反するものとして無効というべく、(後 略)。
 (2)以上に認定した事実によれば、配転に関する労使協定は、当初七・二六覚書及びこれを確認した一・二九覚書が存し、これら覚書ないし、これに基づく配転の実際は、組合に対し事前における共同決定権を認めたものであり、「労使協議成立後にその旨の覚書を作成し、発令する」との覚書文言に照らすと、いわゆる人事同意約款と認められる。
 ところが、一一・三〇覚書は、その文言自体から考えると、協議協定ではあるがこのような意味での共同決定権の明示がない点において異なっている。
 然し、たとえ一一・三〇覚書が組合に対し共同決定権を認めたものでないとしても、右覚書は、従前の七・二六覚書及びこれに基づいて実施されて来た労使慣行を尊重し、誠意を以って労使が協議することを定めたものであるから、右協議において、会社は、組合に対し人選が客観的に見て正当である理由を詳細に説明し、若し、組合の意見、要求が客観的に正当であると認めるときは、これを尊重し、人選を修正するなどして、協議をつくす義務があり、いやしくも自己の見解を一方的に押しつけるような態度方法では協議をつくしたことにならないと解するのが相当であり、この理は組合側にとっても同様である。
 そこで問題は、労使協議において組合に説明された会社の人選理由の妥当性の存否である。
 若し、右人選理由に客観的に見て合理性が認められず、あるいは、組合の運営に著しい支障を生じ労組法七条三号に該当する、若しくは組合活動の故をもってなされた不利益取扱いとして同条一号に該当すると認められるのに、会社が独善的一方的に組合の配転撤回要求を拒否したと認められるときは、会社は信義則に従った協議義務をつくしていないものとして協定違反の責を免れず、これは労働協約違反として本件配転命令を無効ならしめると考える。
 従って、協定違反の有無は、帰するところ、会社のした人選の妥当性ないし組合の運営に対する支障の有無ないしその程度等により決せられることになる道理である。