全 情 報

ID番号 00319
事件名 地位保全仮処分申請事件、地位保全金員支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 松村組事件
争点
事案概要  従業員組合の次期本部執行委員長として推薦される見込みの従業員が、右に対しなされた配転命令が不当労働行為にあたるとしてなした右命令の効力停止の仮処分申請の係属中に、右命令拒否を理由に懲戒解雇されたのに対し、配転前の職場での地位保全等求めた仮処分申請事件。(一部認容)
参照法条 労働基準法2章,89条1項9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1984年11月21日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和58年 (ヨ) 2163 
昭和58年 (ヨ) 2794 
裁判結果 一部却下(棄却)
出典 時報1146号148頁/タイムズ549号274頁/労経速報1207号3頁/労働判例443号45頁
審級関係
評釈論文 新谷真人・季刊労働法135号200頁/土田道夫・ジュリスト878号114頁
判決理由  〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―業務命令拒否・違反〕
 右規定は、現役役員の転勤等が組合運営に著しい支障を与えることが多いところから定められたと解し得るが、そもそも労働協約において本条のように配転を制約する条項を設けることは、本来使用者の行使し得る人事権を制約するものであるから、その条項の類推適用は慎重になされるべきである。
 なるほど、疎明資料によれば、次期本部執行委員長選出予定の支部から推薦された同委員長候補者はこれまでのところ選挙において当選していることが一応認められるものの、当該支部で人選された候補者は組合内部で次期本部執行委員長候補者として最有力な者であることが内定したにすぎず、まだ候補者として被申請人に対しては勿論一般組合員に対しても公にされてもいない段階にある者の場合には、被申請人としてはこのような者を知ることはできず、したがって、あらかじめ組合の意見を聞くべき対象者ということができないから、支部内部で候補者を選出中の段階まで右規定の適用(類推適用)範囲を拡げることは、不明確な事実のうえに労働協約違反の効力を問議することになり妥当な解釈方法とはいえず、結局、本件配転内示段階で右規定を適用(類推適用)すべきではないと解するのが相当である。
 そして、配転内示後においては、現役組合役員が配転の内示された場合と異なり、内定者を変更することは可能であるから、当該内定者が転勤した場合には組合役員として支障があると組合が判断したならば内定者の変更をすることによって組合運営上の支障を回避すべきで、被申請人において転勤内示を行った後に当該対象者が組合役員候補者として内定していることを知ったような場合まで、労働協約三九条によって配転命令権が制約されている趣旨と解釈することはできない。
 〔配転・出向・転籍・派遣―配転命令権の濫用〕
 なお、申請人は、配転命令権の濫用の主張の根拠として、申請人の妻の父が脳卒中後遺症にてリハビリ中であるという家庭事情を挙げる。そして疎明資料によれば、申請人と同居中の妻の父が脳卒中で当時からリハビリ中であること、しかし、被申請人はその当時その事実を知らなかったこと、申請人は本件配転命令内示の際及びその後において配転拒否の理由として右家庭事情を強く主張しなかったことが一応認められるうえ、右家庭事情を考慮に入れたとしても本件配転が直ちに配転命令権の濫用になるということはできない。
 もっとも、被申請人において、申請人に対し事前の意向打診をせず、内示後申請人及び組合からの配転の再考を求める申入れや労働協議会開催の申入れを拒否したことにより、申請人側からみると本件配転が申請人個人の家庭事情や組合に及ぼす影響が少なくないことを考慮せず強引にすぎると思料してもやむをえないところがないではないが、前認定の業務上の必要性、人選の合理性、被申請人の請負業という業務の性質上急遽配転が行われることが少なくなく、かつその際事前に本人の意向を打診するということが必ずしも行われていないこと等を考慮すると、結局、被申請人の業務上の必要性等に比べ申請人及び組合が被る不利益ないし損害が大きいとして、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くとまではいえない。
 よって、配転命令権の濫用の主張も理由がない。
 そうすると、申請人が本件配転を拒否する正当な理由とするため配転の内示後急遽次期本部執行委員長候補者となることを決心したとの認識のもとに、被申請人が申請人の配転拒否に対し懲戒解雇をもって対処したことは、懲戒解雇の基礎となった認識に誤認があったといわざるをえない。
 (中 略)
 以上の事実からすれば、本件懲戒解雇はその理由とされている配転命令拒否の事実はあるものの、その拒否理由の基礎となる重要な事実について被申請人に誤認があり、その誤認したところに基づいて申請人の所為を企業内の重大な秩序違反と捉え、懲戒のうちで最も重い即時解職を選択して、本件懲戒解雇におよんだものと認められるから、その処分の内容が事実認識の誤りに基づく過酷なものであるとの評価を免れることができず、結局社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものといわざるをえない。
 そうすると、本件懲戒解雇は懲戒権者の事実誤認に基づいて過酷な処分に及んだものとして、懲戒権を濫用したものというべきで、その効力を認め得ないものである。