全 情 報

ID番号 00331
事件名 解雇効力停止仮処分命令申請事件
いわゆる事件名 北陸コンクリート工業事件
争点
事案概要  被申請人会社の富山工場への転勤命令、申請外会社への出向命令を拒否して、解雇された従業員らが、転勤命令、出向命令の効力停止、解雇の意思表示の効力の停止を求める仮処分を申請した事例。(申請、一部認容、一部却下)
参照法条 民法625条
労働基準法89条1項9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠
解雇(民事) / 解雇手続 / 同意・協議条項
裁判年月日 1976年2月6日
裁判所名 福井地
裁判形式 決定
事件番号 昭和50年 (ヨ) 139 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労働判例245号49頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔配転・出向・転籍・派遣―配転命令の根拠〕
 会社は昭和三〇年一一月に設立され申請人Xは同三二年九月に入社したこと、会社就業規則(昭和三〇年一一月制定、同四九年八月改定)は、その第二章服務心得第六条(異動転勤)で「会社は業務の都合で職任、職場、職種の変更を命じることがある。」と規定し、昭和三四年に会社と組合との間に結ばれた労働協約中、第四章人事第二一条には「組合員の移動・転勤、職制及び職位の任免については会社は本人の意向を十分に尊重して決めるが、実施に先立ち七日前に本人並びに組合に通知する。但し本人又は組合より異議の申立てがあったときは苦情処理の方法による。」と規定していることが認められ、従って、特別事情なき限り、組合員であること当事者間に争いのない申請人Xと会社との間の労働契約はこれら規定により規律せられることになることは明らかである。
 従って申請人Xは、労働契約上勤務場所の指定、変更についての処分権を包括的に会社に委ねたものと解される。
 しかしながら勤務場所は労働者の現在及び将来の生活に影響するところが多大であり、労働契約の重要な要素であることからすれば、会社の転勤命令権にも自ら合理的な制約が存するものというべく、会社は従業員に転勤を命ずるにあたっては、会社側の業務上の都合のみならず、当該従業員の個人的事情をも十分配慮すべきであり(前記協約二一条中には右の趣旨の文言が存する)、もし会社の転勤命令を発令する業務上の必要性に比し、右命令に従がい転勤することにより当該労働者が蒙る不利益が著るしく大であって、同人に右不利益を甘受させることが酷に失すると認められるときは、右転勤命令は合理的限界を越えたものとしてその効力を生じないものと解するのが相当である。
 (中 略)
 以上の事実によれば、本件転勤命令は、会社のやむを得ない業務上の必要性に基づくものであり、その人選も申請人Xに関する限り正当なものと認められる。
 (中 略)
 以上の事実によれば、入社の当初から約一八年間も自宅から通勤していたX申請人としては、病弱の老母を残こし単身赴任せざるを得ない本件転勤命令は、相当に苦痛であろうことは容易に推測しうるところである。
 しかしながら、幸い同申請人の父は健在であり、父及び申請人の妻とで老母の看病はできる筈であるし、赴任期間も二年と限定されているところからすれば、会社の業務上の必要性に比し、同申請人の苦痛が大であるとまで認めることは困難である。
 してみると、本件転勤命令は一応有効なものと認められる。
 〔配転・出向・転籍・派遣―出向命令権の根拠〕
 一般に親会社、子会社相互間の異動であっても、いやしくも企業としての独自性(自主性)を子会社が有しているときは、右異動は出向として労働者の同意を要することは多言を要しない。
 ところが、本件出向命令につき申請人は同意していないし、また疎明資料によれば、就業規則、労働協約等に会社が出向を命じうる旨を定めた規定は存しないことが認められる。后記賃金規則中の関連会社に派遣された従業員に対する就労義務及び手当等に関する条項(三八条)を以って出向義務を定めたものとは解されない。
 (中 略)
 申請外会社は人的にも物的にも会社の支配下にあることは会社主張のとおりであるが、労働条件において、申請外会社と会社とは所定労働時間に一時間の差が存すること(これは申請外会社の特別な経営上の必要に基づくものと思われる)が明らかであり、労働時間は労働者にとって重大な利害を有する労働条件であることにかんがみると、申請外会社は、労働条件の決定について会社とは異る独自の方針を採用しており、その限りにおいて、企業としての独自性(自主性)を保有していると認められる。
 従って、本件出向命令は実質的に転勤命令である旨の会社の主張は採用できない。
 附言すれば、もし、本件において、右のような労働条件の差異を度外視し、会社と申請外会社は企業体として同一であるとし本件出向を転勤なりとすれば、出向労働者は転勤の名においてその意思に反し、労働条件を不利に変更されることになる。
 これを会社側から言えば、会社は、法人格を別にすることにより、別会社の労働条件を不利に変更しながら、一方において企業の同一性を理由に出向労働者を転勤者として取り扱いその意思に反し労働条件の低下を甘受させ得るということになる。このような事態は明らかに労使の信義則に照らし容認し難いものというべきである。
 〔解雇―解雇手続―同意・協議条項〕
 つぎに疎明資料によれば、会社は、昭和五〇年四月二三日賞罰委員会を開催し、申請人Xに対し、転勤命令不服従を理由に協議解雇を提案し、詳細な説明をなし協議した結果、組合はその決定を会社に一任したこと、協約二二条には、会社が組合と協議の上解雇の必要ありと認めたときは解雇できる趣旨の規定が、就業規則三一条にも同趣旨の規定が存在すること、以上の事実が認められ、また右各条項にいう協議とは労使が信義則にもとづいて慎重に協議することを指称すると解される。
 右事実によれば、会社の本件通常解雇は正当な手続に則り行われたものと認められる。
 そして、疎明資料によれば、就業規則四五条六号には懲戒解雇をなしうる事由として「正当な理由なくして業務命令に対する不服従行為があったとき」と規定されているから、申請人Xの本件業務命令違反は就業規則上懲戒解雇事由に該当することは明らかである。
 してみれば、申請人Xの所為は、就業規則、協約上懲戒解雇事由に該当するから、これを理由に所定の手続に則り行われた本件通常解雇は正当な理由及び手続により行われたものとして有効というべきである。