全 情 報

ID番号 00356
事件名 休職処分無効確認請求、雇用関係存続確認請求事件
いわゆる事件名 理研精機事件
争点
事案概要  使用者のなした休職処分及び懲戒解雇処分につき、右処分はいずれも無効であるとして、雇用関係の存続の確認を求めた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 1979年10月30日
裁判所名 新潟地長岡支
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ワ) 144 
昭和51年 (ワ) 228 
裁判結果 認容
出典 労働判例330号43頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔懲戒・懲戒解雇―懲戒権の限界〕
 休職処分は、「従業員につき客観的に明白な一定の事由が存在するため、就労が不能かもしくは適当でない期間、一時的に、従業員たる地位を保有させたまま、就労を禁止する処分」と解すべきであり、これによって、会社は従業員に対する賃金支払義務を免れる利益を有するとともに、他方、従業員としても、一定の期間、会社の従業員たる地位を保有したまま就労義務を免かれるという利益を有しているものであり、右は、本来、制裁的性格を有しないものである。
 このような休職制度の趣旨、休職処分や懲戒処分に関する労働協約並びに就業規則の体系および前記各定めに徴すると、休職処分と懲戒処分とはその目的を異にする制度であることは明らかである。
 これを本件についてみるに、被告が原告に対してなした本件各休職処分(その内容は後記認定のとおりである。)は、原告に対する制裁としてなされた懲戒を目的とする処分であることは、被告の主張および弁論の全趣旨並びに後記認定に照らして明らかである。
 そうすると、本件各休職処分は、原告に対し、就業規則に定めない種類・内容の懲戒処分を課したことになり、従って、右各処分は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも無効であるといわざるをえない。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒権の濫用〕
 被告の主張のうち、(一)遅刻・早退・外出等、(六)残業不協力、(七)加工ミス、(八)経営理念の否定等、の各事実は、懲戒権行使の対象たりえないものであり、また、(二)職場離脱等、(三)ビラ等の原稿書き、(四)私用電話の無申告等、(五)無断外出、の各事実は、会社の経営秩序に違反する行動であり、従ってその限りにおいて懲戒の対象となりうるものである。
 しかしながら、右のうち(四)の事実は軽微なことであり、(五)の事実も一回だけのことであってこれも軽微なことというべきであるうえ、右(二)ないし(五)の各事実によって会社の業務に著しい障害を与えたと認めるべき証拠もなく、その程度も、原告を企業外に排除しなければ会社の経営秩序が保てないという程度に重大・深刻なものとはとうてい解しがたく、これらは、就業規則所定の懲戒事由のうち、譴責処分事由(第七七条)か、せいぜい減給・出勤停止処分事由(第七八条)に該当する程度のものにすぎないと解すべきである。
 従って、被告が原告に対してなした本件懲戒解雇の意思表示は、懲戒解雇権を乱用した違法なものであって、無効である。
 (2) のみならず、原告は、同一の事由に基き、懲戒処分としてすでに第一次・第二次各休職処分を受けており、重ねて本件懲戒解雇処分を受けたものである。
 右第一次・第二次各休職処分がいずれも無効であることは、前述したとおりである。しかしながら、これは事後的にそのような法的評価を受けたというにすぎず、右休職処分により原告は、事実上、精神的・経済的に多大の不利益・苦痛を受けているであろうことは推測に難くなく(原告は、会社によって就労を拒否され、かつ、賃金の支払も拒否されたため、仮処分を申請し、かつ、本案訴訟をも提起せざるをえなかった。)、これが事実上懲戒処分として機能してしまっていることは否めない事実である。
 そうすると、被告がなした本件懲戒解雇の意思表示は、同一の理由により、原告にさらに追い打ちをかける形でなされた重複処分というべく、右は一事不再理の原則に反し、この点においても懲戒権を乱用した無効なものといわざるをえない。