全 情 報

ID番号 00376
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 光洋精工事件
争点
事案概要  試用期間を二ケ月とする就業規則とは別にこれを一年とする労働契約があったとして採用後一〇ケ月目に試採用を取消された従業員が、右契約の、二ケ月をこえる試用期間を定める部分は無効であり、一〇ケ月目の試採用の取消はその前提を欠き無効である等として本工としての地位保全等求めた仮処分申請事件。(請求認容)
参照法条 労働基準法14条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則と労働契約
解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 1970年3月31日
裁判所名 徳島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ヨ) 289 
裁判結果
出典 労働民例集21巻2号451頁
審級関係
評釈論文 阿久沢亀夫・法学研究〔慶応大学〕43巻12号63頁/渡辺章・ジュリスト495号124頁
判決理由  〔就業規則―就業規則と労働契約〕
 試傭期間を一年と定めた本件労働契約は、試傭期間を二ケ月と明定する就業規則2・4所定の労働条件より不利な労働条件を定めるものというべく、その意味で右労働契約は就業規則の右規定に定める基準に達しないから法第九三条により、二ケ月を超える右労働契約の試傭期間の約定は無効であり、本件労働契約の試傭期間は、就業規則に定めるところに従い二ケ月となるというべきである。
 このことは、たとえ試傭期間を一年とする労働契約が被申請人主張の如く、長年にわたる慣行で、労働組合もこれを承認していたと解しても、解雇に関する就業規則の定めは、労働条件の最低基準として法第九三条により直律的効力を与えられ、右規定は強行法規であるから、これに違背する労働契約は、たとえ労働慣行にもとずくといえども、その違背する限度で無効と解さねばならない。
 以上によれば、申請人は雇入れより二ケ月を経過した昭和四二年一二月一三日を経過するとゝもに、解雇されることなくして試傭期間を終了し、当然本工、すなわち期間の定めのない雇傭契約上の地位を取得し、本件解雇当時は勿論すでに本工となっていたという外ない。
 〔解雇―短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 被申請会社徳島工場長らが申請人に対し右就業規則を手渡した行為のなかには、右試傭期間に関する告知についても右就業規則2・4の規定を採用しその書面による告知をした趣旨も含むと解すべきである。
 (中 略)
 右認定事実を綜合すれば、申請人と被申請人との間に成立した雇傭に関する合意の内容は、期間を一年と限定されたいわゆる臨時工契約ではなく、初期一ケ年のみにつき被申請会社側で申請人に本工として適格性ありや否やの判定をしうる期間を置いたいわゆる試傭契約の伴つた期間の定めのない継続的な雇傭契約であり、その法律上の性質は申請人が、右期間内に解雇されることなく右試傭期間が満了すれば、本工(法律的には期間の定めのない雇傭契約にもとずく従業員たる地位。以下本工とある語はこの意味に使用する)に登用する方式について、被申請人側で特段の定めをしていない本件においては格別の手続を要せず直ちに上記の本工に昇格(期間の定めのない雇傭契約に付せられた附款の消滅ないしは右期間の定めのない雇傭契約そのものへの移行)するが、被申請人が勤務成績、技能、健康状態などから本工として不適格と判定された場合は被申請会社側から就業規則のなかで自から付した解雇制限の規定によることを要せず、上記の理由の存在のみで直ちに解雇することができるという大巾な解約権が留保されている契約であると解するのが相当である。
 (中 略)
 実質的に考察してみても、申請人が採用後に従事した職務内容等は、前記疎明の如く本工と呼ばれている従業員のそれと全く同質であって、たゞ申請人は未経験のため独立して仕事ができないので、熟練した本工の指導を受け、技能を習得しながら一人前の従業員となることを目指している点で、その期間見習の要素があるだけである。技能習得の適性があると判つた者に対しては、被申請会社は近い将来の完全な生産活動にたずさわつてもらう若い工員として期待を向け、工員養成の資本を投下しているもので、その前提の下に工員としての資質を鑑別する目的で、上記のような工員としての相当な選考手続を前置していることが窺われる。以上のような選考の過程ではわからない技能習得の適応性を実施を通して判定するに要する期間が、まさに試傭期間と呼ばれ、解雇権を留保される所以に外ならない。のみならず被申請会社側に、このようにして採用した多数の工員のすべてを、一年の期間を限った法律上の用語としての臨時工として置かねばならない経済上その他の合理的理由が存在することの疎明は何らない。