全 情 報

ID番号 00391
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 いずみ保育園事件
争点
事案概要  一年を期間とする「臨時保母」として雇入れられた者が、期間の終了に際し契約更新を拒絶され、労働契約上の仮の地位の保全を求めた事例。(請求認容)
参照法条 労働基準法21条
民法1条3項,628条
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 1978年4月15日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (ヨ) 220 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例305号43頁
審級関係 控訴審/03292/福岡高/昭54. 4.20/昭和53年(ネ)299号
評釈論文
判決理由  三 以上の事実によれば、被申請会社における停年退職者の嘱託契約は申請人が主張するように期間の定めのない雇用契約の実体を有するものではなく、一年の期間を経過することによって当然終了し、その者が再び嘱託として雇用されることを希望し、被申請会社がこれを容れ両者間に嘱託契約が締結されない限り、従業員たる地位を保有するものではないというべきである。このことは、前記のような事実関係のほか、本件の嘱託制度が、企業の経営事情から雇用当初から一定期間の反覆更新により長期にわたり雇用関係を継続しているいわゆる臨時工の場合とは相違し、従業員の生理的体力的限界を考慮し、更に企業内の人事の円滑な運営という見地からもおけられた停年制度による退職者に対する措置であり、かつ被申請会社の停年が現時点においてみる限り比較的高齢と思われる六五歳であることを考えれば、首肯し得るものというべきである。
 四 しかして、申請人の第二回目の嘱託契約の終期が昭和五二年一〇月二四日であり、同日経過後被申請会社との間に嘱託契約が締結されていないことは前記のとおり当事者間に争いのないところであるから、申請人と被申請人の雇用関係は同日の経過により終了したものというべきである。
 もともと労基法第一四条によると労働契約につき期間を定める場合は原則として一年を超えてはならない。従って、我国における労働契約は、通常期間を定めず締結される場合が多いことは公知の事実であるが、期間を定める場合は原則として一年を超えることができない。そうして、その労働契約に期間の定めがある場合にその期間が満了することにより当然労働契約関係が終了しいわゆる傭止めとなるのか、あるいは特段の意思表示がない限り更新される関係にあるのかは、当該労働契約締結時の当事者の合意内容(その前後の情況から推察される内容を含む)によって決定される。そうして後者の場合、単に期間が満了したというだけでは傭止めとならないことについて労働者がこれを期待、信頼し、そのような相互関係のもとに労働契約関係が存続、維持されてきた場合は、使用者としては単に期間が満了したことの一事をもって傭止めを行うことは信義則上許されず、傭止めを行うについては経営上傭止めを行ってもやむを得ないと認められる特段の事情が存在することを要する。
 (中 略)
 3 以上認定の事実並びに(証拠略)(就業規則)にてらすと、被申請人が、特段の必要に基き被申請人主張の如き趣旨の「臨時」保母を雇入れることが就業規則に違反し、雇入れられた「臨時」保母の労働契約関係から臨時性は否定されるとまで解する根拠は乏しい。しかしこれが有効であるためには、あらかじめその趣旨を明示し、明確に合意を成立させる必要があるのに被申請人はこれを為さず、前記の如く試用ともまぎらわしい説明をして申請人らと労働契約を行った。
 従って本件においては、この点に関する被申請人の主張は採用できない。但し、期間の点は、夫々前記認定の如き合意があったと認められる。そうして、以上認定の事実にてらすと、本件は、単に期間が満了したというだけでは傭止めとならないことについて申請人らがこれを期待、信頼し、そのような相互関係のもとに労働契約関係が存続、維持されてきた場合にあたるから、使用者としては、単に期間が満了したことの一事をもって傭止めを行うことは信義則上許されないと解する。従って、被申請人が、本件で申請人らに対して為した「更新拒絶」は、実質解雇に等しく、それが信義則上許されない場合、あるいは不当労働行為にあたる場合は、無効と解される。
 (中 略)
 2 このようにみて来ると、被申請人のなした申請人らに対する本件労働契約更新拒絶は、従前通りの園経営方針を維持しておれば、昭和五二年度においても申請人らが事実上剰員となることはなく、それができない特段の経営上の事情もなかったし、契約更新拒否をしなければならない必要も生じないのに、別紙三の協定第一項の趣旨を正当に解釈せず、昭和五二年度の自由児の受入れをことさら中止し、よって保母に剰員が生じたことを理由に行われたもので、労使間の信義則に反して無効である。