全 情 報

ID番号 00439
事件名 退職金等請求事件
いわゆる事件名 日本高圧瓦斯工業事件
争点
事案概要  退職にあたり会社の承認を得なかったこと、また就業規定所定の二ケ月前の退職願の提出も怠り円満退職ではないこと等を理由に退職金の支給を受けなかった従業員らが、右退職金請求権は会社主張のいずれの理由によっても消滅しないとして退職金等の支払を求めた事例。(請求認容)
参照法条 労働基準法24条,89条1項3号の2
民法627条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺
賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
退職 / 任意退職
裁判年月日 1984年7月25日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (ワ) 1518 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働民例集35巻3・4合併号451頁/労働判例451号64頁/労経速報1230号18頁
審級関係 控訴審/03140/大阪高/昭59.11.29/昭和59年(ネ)1542号
評釈論文
判決理由  〔賃金―賃金の支払い原則―全額払〕
 被告は、被告が原告らの不法行為により被った損害の損害賠償債権をもって、原告らの退職金債権と相殺する旨主張する。
 ところで、労基法二四条一項は、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と規定するところ、この規定は、労務の提供をした労働者本人の手に労働の対価である賃金を残りなく確実に帰属させんとする趣旨の規定であるから、労働者の賃金債権に対しては、使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することは許されないとの趣旨を包含するものと解するのが相当であり、このことは、その債権が不法行為を原因としたものであっても変りはないというべきである。しかるところ、原告らの本訴退職金は労基法所定の賃金に該当すると解されること前記のとおりであるから、被告において、原告らに対する損害賠償債権をもって、原告らの退職金債権と相殺することは許されないものといわねばならない。
 〔賃金―退職金―懲戒等の際の支給制限〕
 退職金が労基法所定の賃金に該当する場合には、懲戒解雇等円満退職でない場合には退職金を支給しない旨の規定があっても、これが労働者に永年の勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為があった場合についての規定ならば、その限度で有効と解するのが相当であり、労働者に右のような不信行為がなければ退職金を支給しないことは許されないものというべきであり、そうとすると、前記本件退職金規定三一条及び本件就業規則一五条の各規定は、労働者に永年勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為があった場合には退職金を支給しない旨の趣旨の限度で有効であり、これを超える趣旨の特約としては無効と解するのが相当である。(四)しかるところ、原告らの退職が前記就業規則一五条所定の「円満な手続による退職」に該当しないとして被告が主張する事由は、いずれも従業員の退職についての手続規定違反を論難するものに過ぎず、仮に、右被告主張事由が存するとしても、その主張事由自体からして、これが労働者である原告らの永年勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為に該当するものといえないこと明らかである。
 〔退職―任意退職〕
 成立に争いのない乙一号証、弁論の全趣旨によれば、被告の就業規則一二条は、「退職を願出て、会社が承認したとき、従業員の身分を喪失する」旨規定していること、被告が原告らの退職申出を承認しなかったことが認められる。
 ところで、右規定の趣旨及び適用範囲については、従業員が合意解約の申出をした場合は当然のことであるし、解約の申入をした場合でも民法六二七条二項所定の期間内に退職することを承認するについても問題がないが、それ以上に右解約予告期間経過後においてもなお解約の申入の効力発生を使用者の承認にかからしめる特約とするならば、もしこれを許容するときは、使用者の承認あるまで労働者は退職しえないことになり、労働者の解約の自由を制約することになるから、かかる趣旨の特約としては無効と解するのが相当である。
 従って、本件の場合、右就業規則所定の承認がないからといって原告らのなした解約申入れの効果が生じないとはいえず、被告の右主張は採用できない。