全 情 報

ID番号 00557
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 東邦交通事件
争点
事案概要  経理上の不正行為等のため組合員を除名された前執行委員長、およびこれを擁護する活動をして除名された組合員らが、ユニオンショップ協定に基づいて解雇されたので、従業員としての地位保全、就労または組合活動の妨害禁止、賃金支払の仮処分を申請した事例。(申請却下)
参照法条 労働基準法20条
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 労基法20条違反の解雇の効力
解雇(民事) / ユニオンショップ協定と解雇
裁判年月日 1972年7月20日
裁判所名 釧路地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ヨ) 70 
昭和46年 (ヨ) 3 
裁判結果 却下
出典 労経速報793号19頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔解雇―労基法二〇条違反の解雇の効力〕
 雇用予告手当は厳密な意味では賃金ではないが、就職までの労働者の生活を支えるためのものであるから賃金に準ずるものであって、通貨で労働者本人に全額支払うことを要し、労働者に対する債権と相殺することは許されない。従って、右申請人X1および申請人X2外一一名に対する解雇予告手当の支払いは効力がないものといわざるを得ないが、被申請人が即時解雇を固執する趣旨でないことは、本件解雇に至る経過から明らかであるから、前記解雇の意思表示は、労働基準法第二〇条第一項所定の予告期間を経過した時からその効力を生じるところ(最判昭三五・三・一一集一四・三・四〇三参照)、右期間が本件口頭弁論終結時前に経過していることは明らかであるから、右解雇手続の瑕疵は、本件解雇の効力を左右するものではない。
 〔解雇―ユニオンショップ協定と解雇〕
 雇用契約において雇用の期間が定められていないとき、現行法は、当事者が何時でも解約権を行使し得る旨定め(民法第六二七条第一項)その制限される場合について特別の規定(労働基準法第一九、二〇、二一条等)を設けている。従って、使用者は、特別の規定や労働協約、労働契約等によって解雇権が制限されている場合および解雇権の行使が不当労働行為、権利の濫用等の事由により無効となる場合を除き、何時でも有効に解雇権を行使し得ると解さざるを得ないから、解雇権の行使に解雇の理由は本来不用であり、或る理由に基づいて解雇権が行使された場合でも、その理由の存否は解雇の効力と関係がない。そして、解雇は労働者の生活を直接脅やかすものであるから、労働者としては、労働組合の力により使用者との間の労働協約に解雇権の制限についての条項を定めるとか、或いは使用者にとって正当な事由に基づく解雇権の行使に対しても、団体交渉や争議行為によって適法に対抗する方法を有しているのである。解雇権の発生或いは行使の要件に例えば正当事由を要するとの見解は、現行法上その根拠がなく、また解雇の正当事由はその性質上裁判所による判断で親しまないから、実定法上の明確な根拠がない限り、右要件を必要とすると解釈すべきではない。ただ、解雇の労働者の生活に及ぼす影響が極めて大きいことから、何の理由或いは必要もなく、かつ使用者がそれを知り、或いは容易に知り得るのに知らないで解雇権を行使した場合は、権利の濫用として、無効になることがあり得るのである。
 使用者と労働組合との間にユニオン・ショップ協定が存在し、組合が組合員に対して除名の手続を行って、その旨使用者に通知したときは、使用者に被除名者を解雇するべき組合に対する債務が発生する。この場合、使用者の解雇権の行使は右債務の履行として行われるが、右債務の履行ということは被除名者との関係においては先に述べた意味での解雇権の行使の理由に他ならないから、仮に除名手続が無効のため或いはユニオン・ショップ協定の効力が被除名者に対して及ばないため右債務が発生しなかったとしても、解雇の効力に影響を及ぼすものではない。
 従って、雇用期間の定めのないことが明らかに当事者間に争いのない本件においては、申請人X1および同X2外一一名に対する組合の除名手続が無効であることならびに申請人X2外一一名および同X3外二名に対しショップ協定の効力が及ばないことを理由として被申請人の同申請人らに対する解雇の意思表示が無効であるとの主張は、主張自体理由がない。