全 情 報

ID番号 00640
事件名 解雇予告の効力停止仮処分申請事件
いわゆる事件名 パンアメリカン航空事件
争点
事案概要  被申請人の経営不振を打開するため申請人らの勤務する課が廃止され申請人らが他部門への転任に応じなければ解雇するとの条件付解雇予告を受けたため右解雇予告の効力停止を求める仮処分申請がなされた事例。(認容)
参照法条 労働基準法2章,20条
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
裁判年月日 1982年4月28日
裁判所名 千葉地佐倉支
裁判形式 決定
事件番号 昭和57年 (ヨ) 21 
裁判結果 認容
出典 時報1047号154頁/タイムズ477号173頁/労経速報1038号28頁
審級関係
評釈論文 土田道夫・ジュリスト795号112頁
判決理由  1 被申請人が経営合理化を企図し、従業員の横断的使用を画策すること自体は、もとより何ら非難すべき余地がない。
 2 しかし、被申請人は営繕課及び通信課の「閉鎖」というけれども、右両課で従前処理していた職務自体を廃止するというのではなく、他の部門を活用してこれに充てるというにとどまるのであり、ひいて、そのためには他の部門における一定の増員ないし臨時雇傭等が必要であって、未だそのような手当ないし体制の充実がないまま、「閉鎖」を過大に強調固定化して転任を強い、転任に応じなければ解雇というのは、それ自体拙速に過ぎ、社会的相当性を欠くという他ない。
 3 しかも、就業規則上右転任については申請人らの同意を要するところ、転任に応じなければ解雇(ないし転任に応じることが解雇の解除条件)というのは、右就業規則の趣旨を逆用したとの非難を免れず、不当であり許されない。
 4 被申請人が経営困難に陥り、合理化を迫られていること自体は容易に理解できるけれども、日本支社において、合理化大綱を示し、営繕課等の閉鎖を提案した後、僅か一カ月余の間に本件解雇をしたことが真にやむを得なかったものであると認めるべき格別の具体的事情は見出されない。即ち、前記のとおり主眼が申請人らの転任にあるならば、その同意を得べくなお説得交渉に努めるべきであって、被申請人にそのような時間的余裕が全くなかったとは認め難い。けだし、再述すれば、申請人らが従事している職務自体は今後とも会社に必要なものであって、その勤務体制からして必要な人員をもって遂行されており、現体制を前提とするかぎり格別の余剰人員がある訳でないのであるから、その職務自体を今後不要のものとするならば論外として、単に横断的により効率化を計るというのであれば、前記就業規則に照らしても、相当期間の説得を要するというべきである。なお、相当の説得をつくしても、なお応じない場合如何については、論じない。
 三 以上の次第で、その余の点(労働協約、貨物部門に転任した場合の職業安定法の問題等)について論じるまでもなく、本件解雇の予告は解雇権を濫用した無効のものと認められるところ、仮処分をもってその効力を停止しておくべき必要性がある(解雇の有効を前提として本案判決までの間に諸措置が採られると、申請人らに回復困難な損害が生じる)ことも明白であるから、主文のとおり決定する。