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ID番号 00656
事件名 解雇無効確認請求控訴事件
いわゆる事件名 石川島播磨重工業事件
争点
事案概要  任意退職を申し出なければ解雇するとの意思表示を受けた原告らの一部が任意退職に応じ、またその余りがこれを拒否し解雇されたことに対し、それぞれの無効を主張して雇用関係存在の確認を求めた事例。(一審 前者棄却後者認容、二審 前者控訴棄却後者控訴認容)
参照法条 民法1条2項,627条
体系項目 解雇(民事) / 解雇の承認・失効
裁判年月日 1966年4月22日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和38年 (ネ) 1380 
昭和38年 (ネ) 1467 
裁判結果 一部取消 請求棄却 一部控訴棄却
出典 労働民例集17巻2号613頁/時報468号63頁/タイムズ193号174頁
審級関係 一審/00033/神戸地龍野支/昭38. 9.19/昭和35年(ワ)81号
評釈論文
判決理由  使用者が従業員の解雇にあたり従業員に支給すべき解雇予告手当、退職金を当該従業員が受領しないためこれを供託した後、その従業員が供託書の交付を受けてその供託金を受領したときは、受領のさい別段の留保の意思表示をなした等特別の事情のない限り、自己の使用者に対する解雇予告手当、および退職金の請求権の存在を認めたものであり、したがってその前提となる解雇の効力を承認したものというべきであることは、従業員が直接使用者から異議なく解雇予告手当、退職金を受領した場合と異なるところはないのである。その際被解雇者が解雇に反対の意思をもっていたとしても、これを表示するか、あるいは使用者においてこれを知っていたか、もしくは知りうべき状況にあった場合でない限り、解雇承認の効力を否定することができないのはいうまでもない。
 (中 略)
 ところで解雇の承認といっても、その法律構成は具体的な事情に応じて異るのであって、一律的なものではない。使用者の合意解約の申込に対する承諾と解される場合もあれば、また将来解雇の効力を争わない旨の和解とみるべき場合もないではない。さらに解雇の効力を争わない意思を表明したものとして、訴権ないしは訴えの利益の放棄あるいは原告適格の喪失とみる見解も考えられないではない。しかし本件の場合、会社が前記通告書によってなした退職勧告の内容が、前認定の如く一定の期日までに退職願の提出を勧告し、これに応じないものは、その期日限り解雇するというのであるから、その一方的解雇の意思表示(告知)を無効行為の転換理論により、会社の合意解約の申込とし、解雇の承認をこれに対する承諾とみることは無理であり(況んや解雇の承認を同原告からの積極的な退職の申出または合意退職(合意解約)の申込とみることができないのはいうまでもない、)、また同原告および会社双方の互譲による紛争解決の和解とみることも実情にそわない。さりとて訴権ないしは訴えの利益の放棄、あるいは原告適格の喪失とみるのは行き過ぎである。むしろ解雇予告手当、退職金の受領によって解雇の効力を争わない意思を表明し、しかもその後本訴提起に至るまで約一〇年間何ら解雇について異議を述べなかった点(このことは弁論の全趣旨に照して推認できる。)において、禁反言の法理の趣旨からも、信義則上からも、いまさら解雇の無効を理由に雇傭関係の存在を主張し、雇傭契約上の権利を行使することは許されないものと解するのが相当である。