全 情 報

ID番号 00725
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 東鋼橋梁事件
争点
事案概要  職場放棄、信用失墜行為、勤務成績不良等の理由で解雇された原告が、解雇を無効とし雇用契約上の権利を有することを仮に定め、賃金の仮払を命じる仮処分を求めた事例。(申請一部認容)
参照法条 民法1条3項,536条2項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / バックペイと中間収入の控除
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
解雇(民事) / 解雇事由 / 名誉・信用失墜
裁判年月日 1965年10月27日
裁判所名 横浜地
裁判形式 決定
事件番号 昭和38年 (ヨ) 549 
裁判結果
出典 労働民例集16巻5号761頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔賃金―賃金請求権の発生―バックペイと中間収入の控除〕
 ただ申請人は、昭和三八年一〇月頃から建築請負業を営む義兄A方に雇われ、自動車運転や雑役の仕事に従事してきており、右は単に被申請会社に復職するまでの間一時凌ぎのため臨時に雇われているに過ぎず、その収入も必らずしも固定したものでなく、その金額は一箇月平均約金一五、〇〇〇円程度を出でず、加えて昭和三九年七月以降三箇月間は右収入も得ていない状況にあるが、右収入が単なる副業的な収入とは異なり、本件解雇によって被申請会社に対する労務の給付を免れたために、申請人において取得することのできた利益であることが明らかであって、民法第五三六条第二項但書にいう、自己の債務を免れたことにより得た利益に当るものといわなければならない。
 〔解雇―解雇事由―業務命令違反〕
 しかし第一一条が懲戒解雇の規定でないということから同条第一項第九号の「やむを得ない事由が生じたとき」との条項が申請人の主張するように従業員に有責の事由の存しない場合にのみ限定して適用さるべきものとする根拠なく、従業員に雇傭契約上の義務違反乃至経営秩序違反等非難すべき行為があった場合をも含むものと解すべく、従って申請人の前記職場放棄の事実についてもそれが従業員の非難に値する行為であるとの理由から前記条項の適用を否定することはできない。しかしながらこのような従業員側の非難すべき行為を理由として前記条項に基づき解雇する場合にその行為がやむを得ない事由に当るかどうかを判断するに当っては、懲戒規定である第四八、四九条が従業員の有責行為を列挙し、これに対する処置をその情状に応じて最も重い者を解雇、以下軽い者を順に出勤停止、減給、訓戒処分に付するよう規定して、情状の重いことを懲戒解雇の要件としている趣旨、そして解雇が労働者にとって直接その生存を脅かすものであることを思い合わせると、仮令通常解雇にふされるものであるとしても、その基準は懲戒解雇のそれと大きな差異はないものというべく、その態様、情状に照らし悪質で社会通念上解雇に値する行為のあることを要するものと解される。
 〔解雇―解雇事由―名誉・信用失墜〕
 被申請会社就業規則第一一条第一項第四号、第五条第二号によると、従業員が会社の信用を傷つけ又は会社の不名誉となるような行為をしたことをもって通常解雇事由として定められているが、その判断は一つに被申請会社の裁量に任されているものでなく、客観的にみて著しい信用毀損の行為があったことを要するものと解すべきところ、申請人が被申請会社の業務上の指示に違反して職場を放棄し前記公式立会検査に立会わなかったことは先に認定したとおりであるが、前記解雇事由(1)について述べたと同一の理由により、申請人の右所為が被申請会社の信用を著しく損ったものとは認め難く、またその情状に照らしても前記条項を適用して解雇するには値しない。