全 情 報

ID番号 00732
事件名 地位保全等仮処分申請控訴事件
いわゆる事件名 長野電鉄事件
争点
事案概要  妻子あるバス運転手である原告が、女子車掌と長期にわたり情交関係をもち同女を妊娠させたことを理由としてなされた普通解雇を解雇権の濫用であり無効であるとして地位保全の仮処分を求めた事例。(一審 申請認容、二審 原判決取消申請却下)
参照法条 労働基準法89条1項3号
民法627条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 企業秩序・風紀紊乱
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
裁判年月日 1966年7月30日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (ネ) 2496 
裁判結果 取消 却下
出典 労働民例集17巻4号914頁/時報457号60頁
審級関係 一審/長野地/昭40.10.19/昭和40年(ヨ)53号
評釈論文 恒藤武二・季刊労働法63号73頁/峯村光郎・労働法学研究会報694号1頁/木村五郎・新版労働判例百選〔別冊ジュリスト13号〕78頁
判決理由  〔懲戒・懲戒解雇―懲戒解雇の普通解雇への転換〕
 すなわち、控訴会社は協約第二八条第一号就業規則第九七条により懲戒による解雇処分をなしうるとともに、協約第二八条第二号ないし第八号により通常解雇をなしうるものと解する。そして協約第二八条第四号、第五号および第六号には就業規則第九七条第三号、第四号および第一号の各規定と同一ないし類似の内容が規定されているが、後者は解雇以外の降職または諭旨退職等の懲戒事由たる場合をも含んでおり、かつ、懲戒解雇事由に該当する場合においても事情を勘案して懲戒解雇に処することなく、同一の事由を通常解雇事由と定めた協約の当該条項にもとづいて通常解雇に付することは、もとより妨げないところと解すべきであり、この点は控訴人主張のとおりであるが、既に控訴会社が通常解雇の処置を択んだ以上、その経緯の如何を問わず、これをもって協約第二八条第一号の「懲戒により解雇処分をされたとき」とある条項によったものといいえないことは明らかである。
 〔解雇―解雇事由―企業秩序・風紀紊乱〕
 妻子を有し分別ある年輩の運転士たる被控訴人が無責任にも同じ職場に勤務する未成年の女子車掌と長期間にわたり不倫な関係を結んだ挙句同女を妊娠させ、その中絶手術を受けて退職するの止むなきに至らしめた行為は、それ自体すでに控訴会社従業員間の風紀を紊し職場の秩序を破ること著しきものであり、これによって現に当該女子車掌の退職、女子従業員の不安動揺、求人についての悪影響等を招来したほか、バス事業を経営する控訴会社の企業者としての社会的地位、名誉、信用等を傷つけるとともに多かれ少かれその業務の正常な運営を阻害し、もって控訴会社に損害を与えたものと認められるからである。元来運転士および女子車掌間の風紀維持はバス事業運営のため経営者として最も留意すべき重要事項であるから、控訴会社が運転士たる被控訴人によって引き起された本件の如き態様程度の風紀紊乱に対し、事業体の名誉信用を維持し、その正常なる業務の運営を計るうえに到底これを放置しえないものとして協約所定の該当条項を適用し被控訴人を企業の埓外に排除したのは、その立場上まことにやむをえない措置であったといわざるをえない。これを解雇権の濫用であるとする被控訴人の主張は全く理由がない。