全 情 報

ID番号 00757
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 日本経済新聞社事件
争点
事案概要  路上放置の自転車を横領したとして送検、起訴猶予となったこと等を理由に即時解雇された従業員が、右解雇は就業規則の懲戒解雇事由のいずれにもあたらず無効である等として地位保全等求めた仮処分申請事件。(賃金仮払のみ認容)
参照法条 労働基準法20条1項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
解雇(民事) / 解雇予告と除外認定 / 労働者の責に帰すべき事由
裁判年月日 1970年6月23日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ヨ) 2402 
裁判結果
出典 労働民例集21巻3号980頁
審級関係
評釈論文 外尾健一・労働法学研究会報881号1頁/後藤清ほか・季刊労働法78号102頁/恒藤武二・労働判例百選<第三版>〔別冊ジュリスト45号〕66頁/秋田成就・昭45重判解説182頁/渡辺裕・ジュリスト480号151頁/峯村光郎・法学研究〔慶応大学〕44巻8号106頁
判決理由  〔懲戒・懲戒解雇―解雇制限と除外認定〕
 即時解雇が認められるかどうかは、懲戒解雇事由に該当するかどうかではなくて労働基準法第二〇条第一項但書の要件を具備するかどうかにあるから、懲戒解雇と通常解雇の法的効果の差異ということはできない。
 そうすると、懲戒解雇と通常解雇の差異は、退職金債権が発生するかどうかの点にのみあると考えて差支えない。すなわち、懲戒解雇は不名誉等事実上の問題を別にすれば、通常解雇の法的効果に加えて退職金債権の発生を阻害する効果を生ぜしめるに過ぎないのである。
 そうであるとすれば、懲戒解雇と通常解雇を全く異質なものとみる必要はなく、単に雇傭関係を消滅せしめる法律要件事実が存在するかどうかが、先決問題となる本件のような地位確認請求や賃金請求訴訟においては、解雇の意思表示が懲戒解雇する旨の意思表示としてなされているが使用者が懲戒解雇事由にあたるとした事実を懲戒解雇事由にあたるとは評価しえない場合、そこでただちに雇傭関係消滅の効果が生じないと断定することなく、表意者たる使用者の意思が懲戒解雇事由にあたると考えた事実が懲戒解雇事由に該当しないとすれば雇傭関係消滅の効果を意欲しなかったというような特別事情の認められない限り、使用者が懲戒解雇事由にあたると考えた事実を懲戒解雇事由にあたると評価しえない場合でも、右解雇権の行使により通常解雇としての効力すなわち雇傭関係消滅の効果が生じないかどうかを検討する必要がある。
 そこで、本件の場合についてみるのに、右特別事情を認めるに足りる疎明資料はなく、かえって前にも記したとおり、債務者は、債権者に対する信頼を失いこれと雇傭関係を続けてゆく意思を全く失い解雇の意思表示をしたものであると一応認めることができる。
 (中 略)
 そこで、前記二(一)2(1)ないし(3)に認定した事実関係を基礎に前記のように解雇権を行使しうる場合を限定的に列挙した就業規則第四五条に該当する事実があるかどうかについて考えるのに、債権者は、本件非行をおかしたほか二(一)2(4)において述べたように労働義務または誠実義務に違反する行為等があり、債務者の債権者に対する信頼を破壊する事情が存在したことと、債務者は公正・気品の保持を社の方針としこれを全従業員に徹底させその言動を律する基準とすべく努力しており、また債権者の職場はチームワークを必要不可欠とする職場であること等のことを考慮すると、債権者には、債務者との労働契約を終了せしめられ、その地位を失わしめられるのもやむをえないとみられる事由があったとみるのが相当であり、就業規則第四五条第一一号(「その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき」)に該当するといわざるをえない。
 〔解雇―解雇予告と除外認定―労働者の責に帰すべき事由〕
 就業規則等に、即時効力を生ずべき懲戒解雇の要件として労働基準法第二〇条第一項但書の要件にみたない要件を定めても無効であるから、即時解雇の効力の有無は就業規則所定の懲戒解雇の要件を具備しているかどうかではなくして、最低労働基準法第二〇条第一項但書の要件をみたしているかどうかにかかっているといわなければならない。そして、右労働基準法第二〇条第一項但書の定める「労働者の責に帰すべき事由」とは、解雇予告または解雇予告手当の支払いを受けず即時に解雇されてもやむをえないと考えられる程度に重大な職務違反または背信行為が労働者側にあった場合を意味すると考えられる。
 (中 略)
 以上の事実関係について考えるのに、(一)の2(1)記載の債権者の非行は、労働契約関係から派生する労働者の附議義務の一つたる誠実義務すなわち経営の内においてたると外においてたるとを問わず、使用者ないし経営の利益を図るようつとめ、使用者ないし経営に不利になる慮れあることをしないという義務に反しないかどうかが問題となり、(3)において認定したように債務者は公正、気品等の保持を社の方針として部門のいかんを問わず全従業員にこれを徹底させ、対外的信用の保持につとめていることを考慮すると、誠実義務に違反するとみる余地がないわけではないけれども、いまだ解雇予告も解雇予告手当の支払いもせず、即時解雇の効力を生ぜしめるに十分な事情であるとはいい難い。
 また、債務者が情状として主張している債権者の行動も、あるものは労働義務に((2)〈2〉(イ)(ロ))、あるものは誠実義務に((2)〈2〉(ハ)(ニ))違反するといえるのみならず、その他の行為((2)〈1〉〈3〉)を含めいずれも債務者の債権者に対する信頼を破壊する事情であるが、これを前記非行とあわせても労働基準法第二〇条第一項但書の事由があるとはいい難い。
 そうであるとすれば、結局債務者の債権者に対する前記即時解雇の効力は生じないというべきである。