全 情 報

ID番号 00782
事件名 従業員地位確認等控訴事件
いわゆる事件名 高知放送事件
争点
事案概要  民間放送のアナウンサーが寝過ごしたため定時のニュース放送をできなかった等を理由として解雇されたので、従業員としての地位確認等を請求した事件。(原審 請求認容)
参照法条 労働基準法89条1項3号,9号
民法1条3項,627条
体系項目 解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 解雇制限と除外認定
裁判年月日 1973年12月19日
裁判所名 高松高
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (ネ) 80 
裁判結果 棄却
出典 タイムズ304号196頁
審級関係
評釈論文
判決理由  前記認定の事実によれば、被告は原告の行為が就業規則所定の懲戒事由に該当し懲戒解雇に処するを相当と考えながら、これを普通解雇としたものであるが、一般に就業規則所定の懲戒事由が存する場合、形式上懲戒処分たる懲戒解雇に処することなく普通解雇に処することは、その実質が懲戒処分であったとしても、必ずしも許されないものではない。けだし、客観的に懲戒解雇を相当とする場合、これを普通解雇に処することは、特段の事由がない限り当該労働者にとって利益にこそなれ不利益をもたらすものではないからである。しかし、一般に就業規則に軽重数段階の懲戒処分の種類が定められている場合において、そのいずれを選択すべきかについては一応使用者の自由な裁量に委されてはいるものの、その恣意的な選択が許されないのと同様に、使用者が実質的には懲戒の趣旨を以て労働者を普通解雇に処する場合においても、それが社会通念上是認し得ない程度に客観的合理性を欠く場合には解雇権の濫用として許されないものと言わねばならない。そして、具体的に如何なる場合に右の解雇権の濫用に当るかは、個別的事案につき、当該解雇の動機、目的、被解雇者の行為、情状を綜合して判断すべきであるが、解雇(懲戒解雇及び懲戒の目的を以てする普通解雇)が労働者にとって最も重大な制裁であることを考えると、その行使は極めて慎重であるべきであり、当該労働者を是非とも企業外に放逐しなければ到底企業秩序を維持し得ない場合には格別、具体的事情を綜合勘案しても右の程度に至らないような場合には、特段の事由がない限り解雇は客観的合理性を欠くものと言わざるを得ない。
 (中 略)
 本件事故はいずれも原告の寝過しという過失行為によって発生したものであって、悪意ないし故意によるものでなく、またファックス担当員にはアナウンサーを起床さすべき義務がなかったとしても、通常はファックス担当員が先に起き、アナウンサーを起こすようになっていた《証拠略》ところ、本件第一、第二事故ともファックス担当者においても寝過し、定時に原告を起こし、ニュース原稿を手交しなかったのであるから、事故発生につき原告のみを責めるのは酷であること、原告は第一事故については直ちに謝罪し、第二事故については前記認定のとおり起床後一刻も、早くスタジオ入りすべく努力したこと、第一、第二事故とも寝過しによる放送の空白時間はさほど長時間とはいえないこと、被告において早朝のニュース放送の万全を期すべき何らの措置も講じていなかったこと、事実と異なる事故報告書を提出した点についても、一階通路ドアの開閉状況につき原告の誤解があり、また短期間内に二度の放送事故を起こし気後れしていたことを考えると、右の点を強く責めることはできないこと、原告はこれまで放送事故歴がなく、平素の勤務成績も別段悪くないこと《証拠略》、第二事故のファックス担当者Aはけん責処分に処せられたにすぎないこと、被告においては従前放送事故を理由に解雇された事例はなかったこと《証拠略》、第二事故についても結局は自己の非を認めて謝罪の意を表明していること、等の事実を考慮すると、本件の場合、原告をこの際ぜひとも企業外に放逐しなければならない客観的必然性はなく、結局本件解雇は客観的合理性を欠き解雇権の濫用として効力を生じないものと言わなければならない。