全 情 報

ID番号 00785
事件名 地位確認、給料支払請求事件
いわゆる事件名 全国社会保険協会連合会事件
争点
事案概要  病院の組合役員である医師が、就業規則に基づいて解雇されたので、不当労働行為を主張して、従業員としての地位確認、賃金支払を請求した事例。(請求一部認容)
参照法条 民法536条2項
労働基準法89条1項3号
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / バックペイと中間収入の控除
解雇(民事) / 解雇事由 / 就業規則所定の解雇事由の意義
裁判年月日 1974年5月15日
裁判所名 千葉地
裁判形式 判決
事件番号 昭和41年 (ワ) 172 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例205号51頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔賃金―賃金請求権の発生―バックペイと中間収入の控除〕
 解雇された労働者が他で働いて得た収入が、民法五三六条第二項但書にいう自己の債務を免れたことによって得た利益に当るか、否か、説の分れるところである。積極的の理由とするところは、自己の債務を免れることにより、本来労務の提供に用すべき時間拘束からはづされ、そのことにより新たに稼働する機会が生じ、これを利用しての利益であることを理由とする。したがって副業的な収入であれば右収益にあたらない。しかし副業的なものでない収益であっても、そもそも解雇された労働者が他で働くかどうかはその者の意思にかかわるもの故、債務を免れることと右収益との間に因果関係はあるが、相当因果関係はないものと考えられる。またかりに相当因果関係があるとしても、この償還は不当利得の返還という公平の原理にもとづくもの故、両者間の事情即ち使用者が解雇の理由の存在を信じることの相当性、労働者が解雇を無効と信じた相当性、解雇による双方の利害得失を考え、労働者に不当利得が存するとするときに限り返還を命ずべきである。したがって労働者が就労せんとしたが、使用者がこれを拒絶し、しかも仮処分によってその地位が保全されてもなおその態度を変えなかった場合にあっては(本件の場合がこれにあたることは原告本人尋問の結果(一回)によって認められ、右認定に反する証拠はない)使用者は報酬支払義務は全額負担しつつもその就労義務を免除する意思があったものとみるべきであるから、控除せずとも何ら公平の原則に反するとは考えられず、したがって償還を命ずべきものではない。
 右事実からすると、右収入はいわゆる副業的なもので、控除すべき収入に当らない。仮に週三回以上の分は副業といえないとしても、その収入のうちどの部分が副業的でないものか判断し難く、また被告の具体的な主張もないのであるから、これを控除しないこととする。
 〔解雇―解雇事由―就業規則所定の解雇事由の意義〕
 前出乙第一号証の一によると就業規則第三六条に解雇の規定があり、左記事由あるときは解雇されることがあるとしている。
 一、勤務成績がいちじるしくよくないとき。
 二、心身の故障のため職務の遂行に支障があり、またはこれにたえられないとき。
 三、著しい非行があったとき、または非行行為を度重ねたことにより職員として必要な適格性を欠くとき。
 四、業務量の減少等経営上やむをえない事由があるとき。
 被告は右四号の後段に該当すると主張し、具体的には榛名病棟問題を契機として医師が退職し、その後医師の補充が必要だが、原告がいると医師の補充ができないと主張する。
 ところで右条文を検討するに、文理上は四号では業務量の減少等経営上やむをえない事由とあるから、経営上やむをえないという具体的事由は業務量の減少あるいはこれに相当するものに限定されているものと解すべく、けだしこのように解しないと、解雇事由を限定した意味がないからである。したがって、一人の医師の存在がかかる事由に該当するとは制定者も考えていなかったであろうから、立法の意図からしてもかかる場合は右事由にあたらないと考えるのが相当である。また被告の主張の中には、原告の違法な行為を主張しているところがあるが、これらは懲戒事由の判断あるいは通常解雇にあっても一号ないし三号の事由の有無の判断にあたっては格別、四号の判断にあたっては不適切なものというべきである。けだし、違法と断定するだけの自信がない場合にこれをあいまいな経営上止むをえないことというところに押しこもうとする意図があるからである。
 したがって、被告の解雇の正当性の主張はその余の点につき判断するまでもなく失当である。