全 情 報

ID番号 00941
事件名 解雇取消等請求事件
いわゆる事件名 日本調査事件
争点
事案概要  個人所有自動車を使用した場合の調査交通費に関する支給規程の改訂を不服とした原告が、自己所有自動車使用申請書の提出等の手続に応ぜず会社の説得行為に反発したため業務命令違反等を理由に解雇されたので雇用契約上の地位確認と賃金支払を求めた事例(棄却)。
参照法条 労働基準法3章
労働基準法89条1項
労働基準法93条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の範囲
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 調査費支給
裁判年月日 1985年4月24日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和57年 (ワ) 7576 
裁判結果 棄却
出典 労働判例451号4頁/労経速報1229号19頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金の範囲〕
 1 原告は、改正前の支給規定においては、被告会社が支給する調査交通費は、実質的には賃金としての性質を有していたと主張する。
 しかし、前記認定のとおり、改正前の支給規定においても、調査交通費は、賃金とは明確に区別されて、調査活動に要した交通費を実費として支給するものと定められており、ただ、実際に公共交通機関を利用したか、個人所有自動車を使用したかを問わず、一律に、調査資料に基づき最低及び最短距離の原則に従って公共交通機関を利用した料金相当額を、この実費とする取扱いがされていたのである。このような一律の取扱いは、実際には調査職員が公共交通機関を利用しなかった場合の取扱いについて明文規定を欠いた状況の下では、必要経費の算出方法として妥当な取扱いであったものということができる。
 したがって、公共交通機関以外の交通手段を用いることによって、調査職員が現実に要した費用と被告会社から支給される調査交通費との間にある程度の差額が生じることがあったとしても、それは右のような取扱いによる結果にすぎず、そのために、調査交通費が実費支給ではなく実質的賃金の性質を有していたものということはできない。
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-調査費支給〕
 2 支給規定の改正及び取扱規定の制定は、前記認定のとおり、調査職員が調査活動という会社業務のために個人所有自動車を使用することが多くなったという実態に対応して、企業責任の明確化と適切な運営を目的として、個人所有自動車の業務上使用の公認と、それに伴う手当てとしての対人賠償任意保険の加入の義務づけ等を定めたものであるから、その趣旨及び内容において至当なものであったということができる。そして、この場合の調査交通費については、調査活動に要した交通費を実費として支給するものである以上、自動車の業務上使用に伴って要する費用を適正に算出することができるならば、それを実費として支給するのが本来のあり方として合理的である。
 被告会社は、前記認定のとおり、この費用を算出するに当たり調査職員の自動車使用の実態等を調査のうえ、保険料、減価償却費等も含め調査のための走行に要した費用一切を会社が負担するという基本方針の下に対キロ経費を試算し、これに基づいて作成した案を組合に提示し、独自の調査を行った組合との間で前後六回にわたる協議を重ね、その中で組合から出された上積み要求を容れてその合意を得、この合意に基づいて自動車使用の場合の調査交通費の取扱いを定めたものである。そして、(証拠略)によれば、当時、組合には、原告ほか一名を除くその余の調査職員全員が加入していたことが認められ、これらの事情を総合すれば、改正規定による自動車使用の場合の調査交通費の取扱いは、自動車の業務上使用に伴って要する費用を適正に算出して定められたものと認めるのが相当であり、合理的なものということができる。
 (中略)
 しかし、既に述べたとおり、調査交通費は調査の必要経費の実費支給であり、また、改正規定による自動車使用の場合の調査交通費の取扱いは適正な費用の算出に基づいているものと認められるのであるから、従来に比べれば減額になるという不利益はあっても、それは従来が過剰に支給されていたのが是正されるというべきものであって、改正規定による取扱いが合理性を欠くということにはならない。
 (中略)
 4 以上のとおり、支給規定の改正と取扱規定の制定は、調査職員の個人所有自動車の業務上使用に関する至当な措置であり、この場合の調査交通費の取扱いの変更も、実費支給という本来のあり方に合致させた合理的なものである。したがって、これらの改正規定は、原告に調査交通費の減額という限りでの労働条件の不利益変更をもたらすものではあるが、その同意がなくても、原告に対して効力を生じるものといわなければならない。