全 情 報

ID番号 00956
事件名 給料等請求事件
いわゆる事件名 関西精機事件
争点
事案概要  賃金(整理手当)債権の相殺が労働基準法二四条一項に違反するか否かが争われた事例。(肯定、破棄差し戻し)
参照法条 労働基準法24条1項
民法505条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺
裁判年月日 1956年11月2日
裁判所名 最高二小
裁判形式 判決
事件番号 昭和29年 (オ) 353 
裁判結果 破棄差戻
出典 民集10巻11号1413頁/時報95号12頁/タイムズ66号53頁/ジュリスト122号65頁/労働法令通信10巻4号4頁/裁判集民24号31頁
審級関係
評釈論文 法学協会雑誌75巻3号383頁/法曹時報9巻1号60頁/民事研修3号33頁/民商法雑誌35巻5号56頁/労働判例百選〔ジュリスト252号の2〕210頁
判決理由  労働基準法二四条一項は、賃金は原則としてその全額を支払わなければならない旨を規定し、これによれば、賃金債権に対しては損害賠償債権をもって相殺をすることも許されないと解するのが相当である。
 ところで、上告人の本訴請求は、上告人がその主張の期間被上告会社に勤務したことに基く整理手当及び給料の支払を求めるというのであって、賃金の支払を求めるものと解されるにかかわらず、原判決は、上告人がその主張の債権を有する事実を確定しながら、被上告会社の上告人に対する判示損害賠償債権による相殺の抗弁を容れて、上告人の本訴請求を排斥した。
 昭和一七年一〇月頃から同二五年四月末日まで被上告会社に勤務していた。(2)同二四年一〇月一日から同二五年四月末日までの上告人の給料は一箇月五千円、毎月末日払の約であった。(3)被上告会社は営業不振のため同二四年二月末日休業したが、当時従業員に対する給料の未払分があったので、その支払のため、上告人は被上告会社代表者の依頼により、在庫品の売却及び半製品の仕上販売等の任に当った。(4)同二四年八月一七日会社事業が再開されると同時に上告人は取締役に就任したが、その際被上告会社は上告人に対し右休業中の整理手当として一箇月七千円を支払う旨を約した。(5)ところが、被上告会社は右(4)の整理手当及び(2)の給料の各一部を支払っただけで残りの支払をしないので、上告人は被上告会社に対し、その未払分合計三万八千八百八十円六十四銭の債権を有する、というのである。
 以上の事実によれば、右債権中の(2)のいわゆる給料は取締役としての報酬であって賃金とはいえないとしても、(4)のいわゆる整理手当は賃金に外ならないと解せられるにかかわらず、原判決がその金額を確定することなく、漫然右債権の全額につき被上告会社の判示損害賠償債権による相殺の意思表示を有効と認め、これにより右債権は消滅したものと判断したのは、法律の適用を誤った結果審理不尽理由不備の違法を犯したものとなさざるをえない。よって、上告理由五項は結局理由があるに帰し、原判決は破棄を免れないから、民訴四〇七条に従い主文のとおり判決する。