全 情 報

ID番号 01034
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 日揮化学事件
争点
事案概要  全日スト(一日)に参加したために賃金基本月額を二五分の一減額された労働者が、当該賃金カットと就業規則に規定される欠勤カット(一日につき基本月額の一〇〇分の一)との差額の支払を求めた事例。(請求棄却)
参照法条 労働基準法24条1項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 争議行為・組合活動と賃金請求権
裁判年月日 1977年12月21日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ワ) 10304 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集28巻5・6合併号739頁/時報893号92頁/労働判例290号24頁/労経速報972号3頁
審級関係
評釈論文 菅野和夫・ジュリスト689号133頁
判決理由  前示のとおり被告における就業規則付属規程たる給与規定一四条において、欠勤の場合は一日につき右基本金額月額の一〇〇分の一、遅刻、早退の場合は一回につき、同額の三〇〇分の一を控除する旨の規定があるので、原告らの主張する本件賃金差額の請求権の成否は、ストライキによる不就労の場合に、右規定が適用ないし準用されるか否かにかかることになる。
 そこで考えるのに、「欠勤、遅刻、早退」の用語は一般に、従業員が雇用契約上就労義務を負っているのにかかわらず就労しない場合に用いるものであって、従業員の争議権の行使としてストライキが行なわれ、このため雇用契約上の就労義務が一時的に免除され使用者の労務指揮権も排除されるに至る場合の不就労は、右概念に当てはまらないとみるべきであるから、この場合に当然に右規定が適用されるものとみることはできない。
 (中 略)
 さらに、《証拠略》と経験則に照らして右規定の趣旨を考えると、欠勤の場合に本来なら一日につき月額の二五分の一(後述のとおり被告における一月の所定就労日数平均は二五日)の削減をすることができるのにこれをわずか一〇〇分の一控除にとどめ、また遅刻、早退の場合も三〇〇分の一控除にとどめることにしたのは、ひとつには従業員が雇用契約上の就労義務があるのに拘わらず就労しないのは、従業員にそれなりの一身上の都合がある場合が一般であることを考慮した恩恵的措置であるとともに、他面かかる不就労に対してはただ賃金を削減するだけでなく勤怠上の考課の対象となしうるという意味もあるからと考えられるのであり、また遅刻、早退の場合には、その時間の長短にかかわらず、極く短時間の遅刻に対しても一律に三〇〇分の一を控除しうる根拠も、就労義務があるのに就労しない、というところに求めうるのである。しかるにストライキによる不就労の場合は、右にみたいずれの基盤も存在しないというべきである。右のとおりであるから、ストライキによる不就労につき右給与規定の定めを適用ないし準用すべき根拠は、被告の主観面においても、客観的にも、これを認めえないというべきである。しかして、《証拠略》によれば、被告における一ケ月の所定就労日数平均は二五日であり、一日の所定就労時間平均は七時間であることが認められ、本件各ストライキ該当月の所定就労日数が右を上廻るとみるべき証拠はないから、被告が選定者らの本件各ストライキによる前示(別表記載)の不就労時間に対応して、その割合により賃金を削減したのはそれなりの理由があり、それを超えて原告ら主張の賃金請求権を肯定しうべき根拠は、これを見出すことができない。