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ID番号 01055
事件名 賞与金請求控訴事件
いわゆる事件名 大五タクシー事件
争点
事案概要  退職後に成立した労働協約に設けられた年末賞与の受給資格を支給日在籍者に限る規定により右賞与の支給を受けなかったタクシー運転手らが、年末賞与の支給対象期間の全部を就労した以上右賞与に対する請求権を有する等としてその支払を求めた事件の控訴審。(控訴棄却、労働者敗訴)
参照法条 労働基準法24条1項
民法624条
体系項目 賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
裁判年月日 1983年3月29日
裁判所名 札幌高
裁判形式 判決
事件番号 昭和56年 (ネ) 250 
裁判結果 棄却
出典 タイムズ503号149頁/労働判例418号109頁
審級関係 一審/札幌地/昭56. 8.21/昭和55年(ワ)200号
評釈論文
判決理由  前記認定のとおり、控訴人らにおいては、昭和四六年頃から被控訴人の労働組合との間で結ばれた協定に基づき毎年六月と一二月に賞与が支給されており、本件賞与の支給根拠も労働協約である本件協定であること、支給額が各労働者の稼働売上に基づいて決定されるものであること及び労働基準法二四条二項の規定の趣旨から判断すると、被控訴人における賞与は、従業員にとっては、単なる被控訴人の恩恵または任意に支給される金員ではなく、本質としては、被控訴人が労働者たる従業員に対し労働の対価として支払うべき賃金の一種であることは否定し得ないものである。それゆえ労働者は、その金額及び支給時期が確定した場合にはその支払を権利として請求することができることはいうまでもない。
 だが、賞与は、本質的に賃金であるとはいっても、当然には賃金請求権として権利を行使することができるほどに確定的なものではなく、いわば内容的に流動的なものであって抽象的、潜在的ともいえるものであり労働協約の締結によってはじめてその内容が確定し具体化するという特殊な性質を有する賃金であり、したがって、具体的な賞与請求権を行使することができる者の範囲ないし基準も右労働協約によって確定することになるべきもので、たまたま賞与の対象となる労働期間の全部または一部の期間在籍したからといって、当然に、確定的に賞与を請求することができるというわけではない(一般職の給与に関する法律一九条ノ三、一九条ノ四参照)。また受給権者を労働協約によって定めることができるとすることにより、場合によっては(その賞与額ともからみ)労働者の権利を拡張することが可能となるし、また本件協約の如く、支給日を在籍者に限定することも労働能力の向上ないしその意欲の確保という見地からみれば、
 妥当な面を有し、合理性を有するものである。要するに、賞与の受給権者を労働協約によって確定することができるとしても、労働者の保護を薄くすることにはならないのである。
 以上のように考えてみると、被控訴人がその労働組合との間で、賞与の受給資格者を支給日現在の在籍者に限る、と定めた本件協定は必ずしも合理性を欠くものであるということはできない(なお、最高裁昭和五七年一〇月七日第一小法廷判決、判例時報一〇六一号一一八頁参照)。
 したがって、支給日に在籍していない控訴人らの主位的請求はこの点においてすでに前提を欠くものである。」