全 情 報

ID番号 01059
事件名 賃金請求控訴事件
いわゆる事件名 ヤマト科学事件
争点
事案概要  会社によって一時金の支給日前に懲戒解雇され、右一時金の支給を受けなかった従業員らが、一時金は支給対象期間中労務の提供をした割合に応じて支払われるべきであり、その旨の労働慣行もあったとして右一時金の支払を求めた事件の控訴審。(控訴棄却、労働者敗訴)
参照法条 労働基準法24条1項,89条
民法624条
体系項目 賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
裁判年月日 1984年9月27日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ネ) 1181 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報1133号150頁/東高民時報35巻8・9合併号167頁/タイムズ540号252頁/労働判例440号33頁/労経速報1204号10頁
審級関係 一審/01057/東京地/昭58. 4.20/昭和56年(ワ)14706号
評釈論文 和田肇・ジュリスト832号106頁
判決理由  〔賃金―賞与・ボーナス・一時金―賞与請求権〕
 前記1認定の事実によれば、被控訴人においては、一時金(賞与)の支給に関しては、給与規定の第二四条に「定期賞与及び臨時給与は、支給の都度、細部を決めて支給する。」との定めがあるだけで、右のほかには一切就業規則による定めはなく(労働契約により個別に定められ又は労働協約で一般的に定められたことを認めるに足る証拠もない。)、右給与規定の定めにより支給の都度、昭和四八年以前は被控訴人が単独で、昭和四九年四月以降は組合との協定により細部を定めて従業員に一時金の支給をしてきたものであって、右給与規定の定めが極めて抽象的なものにすぎないこと、その細目は被控訴人単独又は組合との協定により定められ、しかもその定められる内容も一時金ないし賞与の金額及びその算出基準のみならず中途退職者に支給するかどうかの支給者の範囲にまで及んでいることに照らすと、被控訴人における一時金ないし賞与は、就業規則等の規定により支給条件が明確に定められ、労務を提供すればその対価として具体的な請求権が発生する賃金とは性格を異にするものであり、所属組合と被控訴人との間において金額、算出基準、支給者の範囲等支給についての具体的な協定がされ(又は従業員と被控訴人との間で合意がされ)その細目が定められない限り、具体的な請求権として発生しないものと解するのが相当である。
 そこで、本件労働協約が細目の定めとして控訴人ら懲戒解雇者を一時金の支給対象者に含めることを定める趣旨であったかどうかについて判断する。前記争いのない事実及び1認定の事実によると、従前被控訴人において一時金ないし賞与の支給対象者として問題となったのは支給対象期間の一部しか在籍していなかった者で支給日に在籍していない者及び支給日以前に懲戒解雇され支給日に在籍していなかった者であることに照らすと、少くとも支給対象期間の全部につき在籍しかつ支給日に在籍する者については当然に支給されることが前提となっていたものであり、もとより本件労働協約もその趣旨で定められていたものと解されるのであるが、懲戒解雇者に対しては、従前支給対象期間の全部につき在籍したか一部しか在籍しなかったかを問わず、一時金の支給がされたことはなく、そのただ一つの例外(前記1例)においても、懲戒解雇の直前に一時金の一括銀行振込手続を完了してしまったので、特にその返還までは求めなかったという特殊事情によるものであり、旧A労組及び訴外組合との間において、中途(任意)退職者に一時金の支給がされる場合にはその旨が協定書中に明記されているのに、懲戒解雇者に対する一時金の支給、不支給について触れた協定書(本件労働協約を含む。)、組合ニュース(後記のものを除く。)は一切なく、かえって、控訴人ら全員が所属していた旧A労組発行の組合ニュースにおいて、任意退職者と懲戒解雇者を区別したうえで、懲戒解雇者には一時金を支給しないことを承認する旨の記載がされており、また、本件労働協約締結に至る過程において、訴外組合と被控訴人との間で控訴人ら懲戒解雇者に対する昭和五四年度夏季一時金が問題とされたことは一度もなかったというのであって、これらの点に照らせば、控訴人ら懲戒解雇者は本件労働協約によって定められた昭和五四年度夏季一時金の支給対象者には含まれていないというべきである。