全 情 報

ID番号 01077
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 宍戸商会事件
争点
事案概要  任意退職した元従業員が、退職金規定もしくは慣行に基づいて退職金が支給されるべきであるとして、その支払を請求した事例。(請求一部認容)
参照法条 労働基準法11条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺
賃金(民事) / 退職金 / 退職金の法的性質
裁判年月日 1973年2月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (ワ) 8738 
裁判結果 一部認容
出典 労経速報807号12頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔賃金―賃金の支払い原則―全額払〕
 被告会社の退職金の法的性格は、賃金の後払と認めるべきである以上、労働基準法第二四条第一項の適用があり、協定により控除する場合がある(本件では、かかる協定についての主張・立証はない)ほかは、かりに、原告が被告に対する不法行為ないし信義則違反の行為があったとしても、別訴で損害を請求するのはともかく、これを理由に退職金を控除したり、まったく支払わなかったりすることはできない。
 〔賃金―退職金―退職金の法的性質〕
 退職金の法的性格については、賃金の後払説、功労報酬説、退職後の生活保障説等に分れているが、被用者が使用者に対し、退職金として請求するには、当該企業における労働協約、就業規則、退職金規定等に明示の規定があるか、それがなくても慣行により、賃金の後払的部分が特定しえて、かつ、支給条件が明確になり、それが当該雇用契約の内容となったと認定しうることが必要である。
 (中 略)
 以上の事実によれば、被告会社においては、後記2の二名を除いては、退職者全員に原告主張の支給基準で退職金が支払われていること(弁論の全趣旨により退職の態様にかかわりがないものと認める。)がうかがわれること、しかも、わずか二年六ケ月の勤続者にも同様の基準で支払われていたことから、退職金は、賃金の後払いと認めるのが相当であり、退職者の退職時の基本給プラス諸手当に勤続年数を乗じた額の退職金を支給する慣行が成立していたものといわなければならない。
 そして、本件についていえば、原告本人尋問の結果によれば、退職時において、原告と被告との間で退職金を支払う旨の合意が成立していたものと認められるが、その額は、弁論の全趣旨により、右慣行によるとの黙示の合意が成立していたものと認める。