全 情 報

ID番号 01104
事件名 退職金請求控訴事件
いわゆる事件名 大阪暁明館事件
争点
事案概要  和議認可決定後に退職した病院職員らが、病院に退職金の支払を求めたところ、破産の危機という事情変更下では退職金規定は失効した等としてこれを拒否されたのに対し、右退職金の支払を求める訴えを提起した事例。(一部変更)
参照法条 労働基準法89条1項3号の2
会社更生法127条の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
賃金(民事) / 退職金 / 破産と退職金
裁判年月日 1984年12月25日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ネ) 2274 
裁判結果 変更(確定)
出典 労働民例集35巻6号657頁/時報1150号234頁/タイムズ549号181頁/労働判例451号48頁
審級関係 一審/大阪地/昭58.11.15/昭和57年(ワ)5563号
評釈論文 伊藤真・判例評論324号49頁
判決理由 〔賃金―退職金―退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 控訴人退職手当規定は、控訴人が制定し、昭和三五年一〇月一日から施行した就業規則の付属規定であって、一定の退職従業員に対し退職時の基本給総額に対して勤務年数に応じた所定の支給率による額を退職金として支給する旨定めていることが認められる。
 右事実からすれば、控訴人退職手当規定による退職金は、使用者が一方的、恩恵的に与えるものではないというべきであって、事情変更の原則が適用される余地は極めて少ないものというべきである。又就業規則は合理的理由がある限りは使用者において改定しうると解されるのであるから、控訴人はその主張の経営悪化等合理的理由がある限りは控訴人退職手当規定を改定して退職金の減額等を定めることは可能であり、しかも控訴人の主張によれば右悪化は突発的に生じたのではなく既に昭和五〇年以降から始まっていたというのであるから、被控訴人らが退職した同五七年までの間に右規定の改定をはかる時間的余裕はあったと考えられるのに、右A証人の証言と弁論の全趣旨によれば右改定の措置など全くとられなかったと認められ、このことからすれば、控訴人主張事由をもっては被控訴人らの退職金債権について控訴人主張の事情変更の原則を適用することは到底できない。したがって、右抗弁は失当である。
〔賃金―退職金―破産と退職金〕
 退職金債権が雇傭契約を原因とするとはいえ、それは在職中のその時々において在職期間、基本給総額に応じて発生しているというものではなく、これが具体的な権利として認められ、権利を行使しうるのは、退職という事由が発生した後であると解すべきである。
 和議は、破産の場合と異り、債務者の財産の管理処分権能は和議開始によっても原則として失われないのであるから、和議開始前からの従業員との雇傭契約が和議開始後も継続することは当然に予期される。したがって、仮に和議開始前に発生した退職金債権を和議債権と解するならば、それは和議開始前の在職期間と基本給総額に相応するものとみざるをえないが、そうだとすると、和議開始後も在職する場合には、これに応じた退職金債権の発生もあるから、退職時において一時に支給されるべき退職金についてその内容において区分された二種類のものが存在するという不合理なこととなる。
 又、仮に右のように退職金債権を和議債権と解すると、和議開始決定当時在職する従業員は和議債権の届出をなし債権者集会で議決権を行使することになるが、前記のように退職金額は在職年数、退職事由等により変動するのが通常であり、特に将来における退職事由を予測することはほとんど不可能であるから、これらの者に債権の届出をさせてその議決権を行使する金額を決定することは不可能に近く、その手続が極めて煩雑になり、非現実的なものといわざるをえない。
 和議手続のように、株式会社の事業継続を前提とする会社更生手続においても、更生手続開始決定、同計画認可決定の前後を通じて雇傭関係が継続する会社の使用人の退職金債権については、その届出を一律に退職後にするものとし(会社更生法一二七条の二)、更生計画に定められなくても失権しない(同法二四一条)ことと規定されている。
 (3) したがって、退職金債権は、退職によってはじめて具体的に発生し行使しうるものであるから、和議手続においては、手続開始後も引続き在職する従業員の退職金債権は和議債権とせず、和議の効力を受けないものと解するのが相当であり、被控訴人の抗弁(三)は採用しえない。