全 情 報

ID番号 01157
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 微生物研究事件
争点
事案概要  会社が経営不振に陥ったために会社と労組間の賃金等に関する労働協約の履行につき連帯保証を労組に約した会社の経営者の相続人に対して、不払い賃金の仮支払いが求められた事例。(申請一部認容)
参照法条 労働基準法11条,24条
民法446条
労働組合法16条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 賃金債権の放棄
裁判年月日 1978年2月16日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (ヨ) 2242 
昭和52年 (ヨ) 2302 
裁判結果 一部認容
出典 タイムズ369号344頁/労働判例293号59頁/労経速報978号23頁
審級関係
評釈論文
判決理由  四 以上一、三項に認定したAとB会社との関係、団体交渉に至る紛争の経緯、連帯保証条項合意に至る交渉の経緯と理由、その合意が当時の従業員の全員たる組合員の面前で行なわれていること、合意文書の文言等諸般の事情並びに、右のとおり成立した労働協約の内容は従前の労働条件を上廻るものであつたから労働組合法一六条の規定によりそのいわゆる規範的部分は当然にB会社と組合員との間の労働契約の内容となる関係にあるところ、右労働協約の締結は労使双方ともそのことを意識しつつなされたものと推認されることに鑑みると、Aが組合に対し昭和五〇年三月一〇日及び同月一四日にした労働協約の履行に関する連帯保証の意思表示は、単に労働協約によりB会社が組合に対して負担する債務の履行について連帯保証することを約するのにとどまらず、労働協約の締結によりその規範的部分について労働組合法一六条の規定によりB会社が組合員に対して労働契約上の債務を負担するに至ることを前提として、その債務の履行につき、B会社が将来にわたりC会社やA個人を離れて独自の経済的負担力に不安があるとの認識の下に、A個人が組合員に対してもその連帯保証債務を直接履行すべきことを組合に対し約束したもの、即ち第三者たる組合員のためにする契約として成立したものと解すべく、そして組合員の構成は将来変動することが当然予定され、それに伴つて労働協約中の規範的部分は新たに加入する組合員に対する基準として機能する関係にあるのであり、また労働協約に基づくその規範的部分の内容も、協約の改訂や新たな協約の締結により変動し改訂されることが予定される性質のものであるから、右連帯保証の範囲は、将来加入すべき組合員に対する債務をも含み、かつ将来改訂されるべき労働協約に由来する債務をも含む趣旨で締結されたものと、一応認めるのが相当である。
 (中 略)
 本件連帯保証契約に基づくAの責任は、既に判断したとおり将来組合に加入すべき全てのB会社従業員に対する賃金債務等労働協約に由来する労働契約上の債務全般に及びかつ期間も無制限という継続的かつ広汎にわたるものであるから、かかる継続的連帯保証責任については、連帯保証をするに至つた事情、連帯保証人と債権者及び主債務者等との関係等契約時における事情を踏まえつつ、なおその後に生じた連帯保証人と主債務者との信頼関係の変動、主債務増加の原因その他諸般の事情を綜合考慮して、信義則に照らし、合理的範囲を超える主債務部分については、その連帯保証責任を制限することができるものと解するのが相当である。
 (中 略)
 《証拠》によると、昭和五一年一二月当時B会社は既に運営資金に苦しみ、同代表取締役Dは再三にわたりC会社に対して雑誌代及び広告代の前渡支払いを求め、かろうじて同月中に昭和五二年四月までの契約分のうち一五二万円のみを残して残額全部の前渡支払いを得たが、そのころからC会社はB会社に対する資金支出打ち切りの態度をほのめかしていたものであることが認められるのであり、その後C会社が資金支出打ち切りの態度を明らかにした時期と債権者X採用内定の時期との前後関係は明らかではないが、いずれにせよ同債権者採用内定の時期において、将来B会社の営業継続及び従業員に対する賃金等支払いが資金的に困窮するとの予測ができる状況にあつたものと認めるべく、またかかる状況に照らせば、右の時期においてB会社の営業上従業員増員の客観的必要性は何ら存しなかつたものといわざるをえない(なお昭和五一年一一月当時においてすら必要性が存したと積極的に肯認しうるに足る疎明はない。)。そして右事実と弁論の全趣旨に照らすと、組合及び債権者Xにおいても、B会社のかかる状況の概要はこれを予知しながら、右採用に至つたものと推認するのが相当である。かかる時期及び事情における同債権者の採用は、いたずらにB会社の賃金等債務を増加させるものであり、これにより増加した右債務は、本件連帯保証契約時における前示意図から著しく逸脱するものであつて、組合及び債権者Xにおいてもこの事情を知りながら採用されたものと認められる以上右採用に基づく同債権者の賃金等請求権については、本件連帯保証責任を追求しえないものと解するのが相当である。よつて本件冒頭掲記の各主張は、右の限度で理由があるが、その余は採用しえないものというべきである。