全 情 報

ID番号 01238
事件名 懲戒処分無効確認等請求事件
いわゆる事件名 日本航空事件
争点
事案概要  勤務条件を定める勤務協定に従い会社が作成する一ケ月毎の勤務割表に具体的乗務内容が定められていた航空会社の客室乗務員が、飛行機事故を理由とする会社の勤務変更命令を拒否したとして減給処分、二ケ月間の下位職代行処分、右処分の社内報等での公表を受けたのに対し、右処分の無効確認、慰藉料請求等求めた事例。(一部認容)
参照法条 労働基準法2章,32条,36条
体系項目 労働時間(民事) / 時間外・休日労働 / 時間外・休日労働の義務
裁判年月日 1984年9月20日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和55年 (ワ) 3350 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 労働民例集35巻5号534頁/時報1128号132頁/タイムズ537号294頁/労経速報1202号7頁/労働判例438号16頁
審級関係
評釈論文 安枝英のぶ・判例評論336号48頁/新谷真人・季刊労働法134号175頁/中窪裕也・昭和59年度重要判例解説〔ジュリスト838号〕222頁
判決理由  前日の勤務終了後当日の勤務の開始に至るまでの時間は、労働から解放され、自由な行動をすることができる時間であるにもかかわらず、勤務時間の繰上げを命じられることによってこのような自由時間の短縮を余儀なくされるのであるから、これにより従業員の受ける社会生活上の不利益は著しく大きいものといわなければならず、このような不利益の前には使用者側の業務上の必要性は一歩を譲らなければならない。したがって、勤務時間の繰上げを当日になって命じることは、勤務協定にこれを認める規定が存在するか、又はその旨の事実たる慣習が存在しない限り、許されないと解すべきところ、前記認定のとおり、そのような規定や事実たる慣習は存在しないし、かえって、勤務協定覚書中には、原則として被告会社に出頭時刻の繰上げを命じる権限がないことを窺わせる規定も存在しているのであるから、被告会社には少なくとも当日になってから勤務時間の繰上げを内容とする勤務の変更を命じる権限はないと解すべきである。
 原告は前記のとおり一応被告会社の要請を拒絶し得る地位にあったというべきであるが、他方、《証拠略》によると、勤務割表の配布後、年休の取得等により当初予定されていた勤務スケジュールの中に欠務者が生じ、その穴埋めのために他の者の勤務スケジュールを変更するなど、勤務割の変更を要することは非常に多く、現に勤務割表によって定められた勤務が後に変更されることが非常に頻繁に行われていることが認められるのであって、このことのほか、被告会社の業務の持つ高度の公共性及び原告ら客室乗務員に固有の特殊な勤務内容と勤務形態に照らすと、原告が右要請を拒絶することによって、便が欠航又は大幅に遅延するなどし、被告会社はもちろんのこと多数の乗客が大きな不利益を受けることにもなりかねないのであるから、原告は、いかなる場合にも被告会社の要請を当然に拒絶し得るのではなく、被告会社の要請の内容とその原因、右要請の緊急性と代替性の有無、勤務変更により原告の受ける不利益の有無又はその程度などの具体的諸事情によっては、原告の要請拒絶が信義則に反するものと評価される場合もあり得るというべきである。
 (中 略)
 以上のとおり、原告への協力要請は当初から被告会社の業務にとって必要不可欠の措置であったとはいい難いし、右協力要請を受諾することによる不利益は特にはなかったとしても、原告の対応に格別の問題を見いだすことはできず、右協力要請についての被告会社と客乗組合との交渉が決裂した主たる原因は被告会社の担当者の見解にあり、しかも、交渉決裂以前に協力要請自体が実際には不要なものになっていたのであるから、いずれの点からするも、原告の行動に信義則に反する点があったということはできない。