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ID番号 01306
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 住友化学工業事件
争点
事案概要  休憩時間を労働協約及び就業規則どおりに与えずに労働者をその労務指揮下に身体・自由を半ば拘束状態においたとして、休憩を与える債務の不完全履行を理由に会社に対して、休憩時間に対応する賃金相当額の損害賠償および慰謝料の支払いが求められた事例。(一審 請求認容、二審 原判決変更、請求一部認容)
参照法条 労働基準法34条
民法710条
体系項目 休憩(民事) / 「休憩時間」の付与 / 休憩時間の不付与と損害賠償
裁判年月日 1978年3月30日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ネ) 597 
昭和51年 (ネ) 488 
裁判結果 変更(上告)
出典 時報923号118頁/タイムズ364号219頁/労経速報980号7頁/労働判例299号17頁
審級関係 上告審/03318/最高三小/昭54.11.13/昭和53年(オ)763号
評釈論文 秋田成就・ジュリスト690号137頁/野沢浩・労働判例299号12頁
判決理由  原判決一七枚目表四行から六行までを削除し、次のとおり加える。
 「もっとも、前認定の事実関係からすると、例えば一勤の場合、一一時三〇分から一二時までの間に交替で一五分の食事時間を与え、それに続く一二時から一三時までの一般交替勤務者の休憩時間帯にあたる一時間については、定常的作業を行なわせないよう配慮していたことは明らかであるが、前叙のような操炉班の勤務の実態からすれば、一五分間の食事時間はともかく、右一二時から一三時までの一時間を含め、控訴会社のいう非実働時間三時間半については、その間事実上休息をとり得たものとしても、それはいわゆる手待時間と認めるべきものであるから、結局、前記協約・規則等で定める一時間の休憩時間が、その趣旨にそって完全に与えられていたとはとうてい認められない。このように被控訴人ら操炉班員に対する休憩時間は、その時間の指定が明確を欠いていたうえ、実質それに相当する時間帯においても、控訴会社の労務指揮のもとに身体・自由を半ば拘束された状態にあったものであるから、この意味において控訴会社が操炉班員に与えたとする休憩時間は不完全であり、休憩を与える債務の不完全な履行であると解するのが相当である。」
 そこで被控訴人の損害賠償の請求について検討するに、叙上説示のとおり、被控訴人は協約・規則等に定める一時間の休憩を完全な形で与えられず、それにより控訴会社の労務指揮下に身体・自由を半ば拘束され、身体上、精神上の不利益を蒙ったことは肯認できるが、被控訴人がその主張のように勤務一時間に対応する労働賃金相当額の損害を蒙ったものと認めることはできない。けだし、休憩時間は、労働契約上定められた一勤務八時間の中の一時間であり(この時間を労働者である被控訴人が他の勤務に振替えて稼働できる性質のものでないことは明らかである。)前記のように半ば拘束状態にあったにしても、その時間帯に完全に控訴会社の労働に服したというものでもないのであるから、被控訴人の前記身体上・精神上の不利益は、勤務一時間あたりの労働の対価相当額に換算或は見積ることはできないものというほかはない。
 したがって、債務不履行を理由とする被控訴人の賃金相当額の損害賠償請求は、失当として排斥を免れない。
 しかしながら、慰藉料請求の点については、前認定のとおり、使用者の労務指揮権から離れ、自由にその時間をすごすことにより肉体的・精神的疲労の回復を計るべく設けられた休憩時間の付与が債務の本旨にしたがってなされず、被控訴人の身体・自由といった法益について侵害があったと認められる以上、これにより被控訴人が精神的損害を蒙ったと認めうることは多言を要しない。
 しかして、前認定の本件操炉現場における職場環境からみて、班員の休憩の必要性は他の職場に比しより高いものがあると考えられること、右職場環境について漸次改善がなされたことがうかがえるとはいえ、控訴会社の右債務不履行が相当期間継続したこと、他面操炉班では比較的待機時間が長く、その間事実上休息をとることができたと認めうること、その他諸般の事情を総合考慮すると、被控訴人の蒙った精神的損害を金銭に換算すれば、その額は三〇万円をもって相当とするものと認められる。