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ID番号 01316
事件名 賃金請求上告事件
いわゆる事件名 米軍立川基地事件
争点
事案概要  米軍立川基地司令官の、基地内での政治活動等の禁止命令に違反して、休憩時間中に基地内で集会を開いた組合役員が出勤停止命令を受けたことに対して、右出勤停止処分の無効確認と賃金支払いを請求した事例。
参照法条 労働基準法34条3項
体系項目 休憩(民事) / 休憩の自由利用 / 自由利用
裁判年月日 1974年11月29日
裁判所名 最高三小
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (オ) 797 
裁判結果 棄却
出典 訟務月報21巻2号421頁/裁判集民113号235頁
審級関係 控訴審/01310/東京高/昭40. 4.27/昭和38年(ネ)1313号
評釈論文
判決理由  思うに、駐留軍労務者も、日本国とアメリカ合衆国との安全保障条約第三条に基づく行政協定(以下「旧行政協定」という。)一二条五項により、労働基準法三四条三項の適用を受け、休憩時間中は、駐留軍の指揮命令の下における服務の拘束を離れ、この時間を自由に利用することができるのである。しかしながら、一般に労働者は、休憩時間中といえども、その勤務する事業所又は事務所内における行動については、使用者の有する右事業所等の一般的な管理権に基づく適法な規制に服さなければならないものであって、駐留軍は、旧行政協定三条により、その施設及び区域内における管理権を有するのであるから、駐留軍労務者もまた休憩時間中の基地内における行動について、右基地管理権の適法な行使による制約をまぬがれることができない。もつとも、労働者は、通常、休憩時間中も勤務場所における滞留を余儀なくされるものであるから、使用者の管理権に基づく労働者の行動規制も無制限であることをえず、管理上の合理的な理由がないのに不当な制約を課する場合には、あるいは労働基準法の前記規定に違反するものとして、あるいは管理権の濫用として、その効力を否定せられることもありうるというべきであるが、管理権の合理的な行使として是認されうる範囲内における規制であるかぎりは、これにより休憩時間中における労働者の行動の自由が一部制約せられることがあっても、有効な規制として拘束力を有し、労働者がこれに違反した場合には、規律違反として労働関係上の不利益制裁を課せられてもやむをえないものと解さなければならない。
 (中 略)
 これを本件についてみると、原審が確定した事実によれば、立川基地司令官は、駐留軍の使命達成のため、その安全と安定を保持する必要上、基地管理権に基づき同司令官の管理する施設内における労働者の大会、示威運動、祝典、会議、集会を禁止する本件命令を発したというのである。そこでまず、右命令が駐留軍の合理的な理由に基づく基地管理権の行使と認めることができるかどうかを考えるに、駐留軍は、極東における国際の平和と安全の維持及び日本国の防衛に寄与するために配備されている軍隊であって、その性質と任務にかんがみ、軍隊の安全と安定を確保し、緊急非常の事態に即応して迅速かつ効果的に活動しうるような態勢を不断に保持すべき極めて強い要請が存し、そのためには軍隊の駐留する基地内の規律と秩序を常時厳格に維持する高度の必要があることはたやすく肯認しうるところである。原判決の認定するところによれば、本件命令は、軍隊の保安に危険を及ぼし、その活動の障害となるおそれのある基地内の行動を阻止するための措置として発せられたものであるが、前記のように基地内における規律と秩序維持の要請が極めて強いものであること、その要請を満たすためにいかなる措置が必要かつ適切であるかは、諸般の事情に照らして判断されるべき問題であり、これに関する責任ある当局の判断が著しく合理性を欠くものでない限り、これを否定することは相当でないこと、本件命令が基地内の集団的行動のみを禁止するものであることをあわせて考えると、たとえその禁止がある程度包括的であり、かつ、無条件なものであるとしても、これをもつて合理的な理由を欠く基地管理権の行使と断ずることは相当でない。他方、駐留軍労務者は、休憩時間中における個人的な行動の自由については格別制約されていないし、また、基地内における集団的行動の形態による組合活動や意見表明活動は許されないとしても、それ以外の形態によるこの種の活動や基地外におけるそれは自由とされているのである。そうすると、本件命令が労働者の休憩時間の自由利用を不当かつ実質的に阻害するものとして、労働基準法三四条三項に違反するものということはできないし、また管理権の合理的な行使として是認されうる範囲をこえて、不当に駐留軍労務者の組合活動や意見表明活動の自由を制限するものとして、基地管理権の濫用であると断ずることもできないのである。