全 情 報

ID番号 01397
事件名 賃金並びに損害賠償請求事件
いわゆる事件名 中原郵便局事件
争点
事案概要  計画年休、年休請求に対し時季変更権が行使されたにも拘らず、欠勤したとして減給、訓告の各懲戒処分に付された原告らが、カットされた賃金と附加金、処分のために被った損害の賠償、慰藉料、弁護士費用の各支払を求めた事例(一部認容)。
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 時季変更権
年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 違法行為への参加
年休(民事) / 計画年休
裁判年月日 1985年12月23日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和54年 (行ウ) 88 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 時報1179号142頁/労働判例466号27頁
審級関係
評釈論文 郵政省大臣官房人事部労働判例研究会・官公労働40巻7号45~47頁1986年7月
判決理由 〔年休-時季変更権〕
〔年休-計画年休〕
 原告X1に対する時季変更権の行使は、計画年休についてのものである。ところで、計画年休は、前記のように所属長が年度初頭において職員の請求により業務の繁閑等をしん酌して各人ごとに当該年度中の付与計画を立ててこれを付与するものであるから、年度の途中において時季変更権を行使し、右計画の休暇付与予定日を変更することのできるのは、計画決定時においては予測のできなかった事態発生の可能性が生じた場合に限られるというべきである。そして、その場合においても、時季変更により職員の被る不利益を最小限にとどめるため、所属長は、右事態発生の予測が可能になってから合理的期間内に時季変更権を行使しなければならず、不当に遅延した時季変更権の行使は許されないものと解するのが相当である。(最高裁昭和五八年九月三〇日第二小法廷判決・民集三七巻七号九九三頁参照)。
 これを本件についてみるのに、A課長は、昭和五三年五月一六日に至り同月一八日ないし二〇日の原告X1の計画年休付与予定日を変更したものであるが、その変更の理由は、同原告と同じ班に所属するBが訓練で欠務しているため担務の差し繰りがつかないこと及び同原告が出勤しなければ物数調査の実施に支障が生ずることの二点である。しかし、前記認定のようにBが同年五月一〇日から同年七月二八日までの間訓練のため京都郵政研修所へ入所することは同年四月二四日に判明していたことであり、また、物数調査の実施日が同年五月一八日、一九日及び二二日と決定されたのは同年四月一七日であり、同月一九日にはその旨が班長ミーティングで報告されていたのである。そうすると、A課長が計画年休の変更の理由に当たる二つの事実を知ったのは同年四月二四日であるから、原告X1に対する計画年休の変更をしなければならない事態の発生の予測が可能となったのは同日であると認めることができる。そうであるとすれば、A課長が計画年休付与予定日の直前である同年五月一六日に至って時季変更権を行使したことは、合理的期間内にされたものということはできず、不当に遅延したものであって許されないものといわなければならない。
〔年休-時季変更権〕
 年次有給休暇の権利は、労働基準法三九条一、二項の要件が充足されることによって法律上当然に労働者に生ずる権利であって、労働者がその有する休暇日数の範囲内で、具体的な休暇の始期と終期を特定して時季指定をしたときは、客観的に同条三項ただし書所定の事由が存在し、かつ、これを理由として使用者が時季変更権の行使をしない限り、右の指定によって年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅するものと解するのが相当である(最高裁昭和四八年三月二日第二小法廷判決・民集二七巻二号一九一頁参照)。そして、労働基準法三九条三項ただし書にいう「事業の正常な運営を妨げる」事由の存否は、事業の規模、内容、当該労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、時季を同じくして年休を請求する者の人数等諸般の事情を考慮して客観的に、かつ、年休制度の趣旨に反しないよう合理的に決すべきである。
 本件においては、原告X2の所属する第二集配課の業務についてその正常な運営を妨げる事由があるか否かが問題となるのであるが、第二集配課では前記のように郵便物の取集め及び配達業務を行っていたのであるから、右の業務の正常な運営を妨げる事由の存否、換言すれば、郵便物の配達の遅れや未処理が発生することがないかどうかが問題となる。そして、各曜日における必要配置人員は前記のように郵便物の配達業務を円滑に処理するために定められた員数であるから、これを欠くときには特段の事情のない限り業務の正常な運営を妨げる事由があるということになろう。右の必要配置人員の確保のためには、代行者の配置ができないかを真剣に検討する必要があることは、いうまでもない。
 (中略)
 以上によると、右三日間について、原告X2の自由年休取得によって第二集配課の業務の正常な運営を妨げる事情があったものと認めることはできないから、C課長の同原告に対する時季変更権の行使はその要件を欠き、無効といわざるを得ない。そうであるとすれば、右三日間について原告X2には年次有給休暇が成立したものといわなければならない。
〔年休-年休の自由利用(利用目的)-違法行為への参加〕
 また、原告X3は、右時季変更権の行使は、同原告がいわゆる成田闘争に参加することを阻止しようとしてされたものであるから、権利の濫用であると主張するが、C課長にそのような意図があったか否かはともかくとして、右のような時季変更権行使の前提となる業務の正常な運営を妨げる事情が存在し、かつ、時季変更権の行使が困難であると認められる事情が存在しない以上、時季変更権の行使は適法なものと評価するほかなく、同原告の右主張は採用できない。