全 情 報

ID番号 01431
事件名 年次有給休暇確認等請求事件
いわゆる事件名 日本国有鉄道事件
争点
事案概要  国鉄の動労組合員らが、附与された年休のうち自由年休を請求したが年休附与を拒否され、国鉄から二年の時効で消滅した旨の扱いをすると通告してきたので、各日数の年休請求権を有することの確認を、予備的にその日数の給与相当額の損害賠償を請求した事例。(本位的請求及び予備的請求いずれも棄却)
参照法条 労働基準法39条,115条
体系項目 年休(民事) / 年休の繰越
雑則(民事) / 時効
裁判年月日 1973年3月23日
裁判所名 静岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和44年 (ワ) 10 
裁判結果 棄却(控訴後取下)
出典 労働民例集24巻1・2合併号96頁/時報711号133頁/タイムズ291号177頁
審級関係
評釈論文 窪田隼人・労働判例百選<第三版>〔別冊ジュリスト45号〕132頁/大山宏・季刊労働法91号82頁/平岩新吾・労働経済判例速報812号27頁/木村慎一・判例評論182号36頁
判決理由  年次有給休暇請求権に消滅時効の規定の適用があるというためには、その前提として年次有給休暇請求権のいわゆる繰越しが認められなければならないが、年次有給休暇制度の本来の趣旨からいって、年次有給休暇請求権の繰越しは、これを認めることができないといわざるをえない。すなわち、年次有給休暇の制度は、当該年度において法定の日数を有給で現実に休むことを保障するものであって、その制度本来の趣旨からは、毎年法定の日数を現実に休ませることが要請され、たんに抽象的な年次有給休暇請求権を与え、その繰越しないし蓄積を認めるだけでは足りないものというべきである。換言すれば、労働基準法が最低限度の労働条件として罰則をもって強行し保障しようとしているところのものは、たんなる抽象的な年次有給休暇請求権の附与またはその蓄積を認めることではなく、現実に当該年度の一定日数を有給で休ませることであるというべく、労働基準法第三九条にいう「有給休暇を与え……」たことになるためには、現実に有給で休ませることが必要であり、抽象的な年次有給休暇請求権の附与ないし繰越しでは足りないものといわなければならない。これに反し、年次有給休暇の繰越しを認める立場をとるとすれば、それは必然的に、右同条にいう「有給休暇を与え……」ることをたんに抽象的な年次有給休暇請求権を附与することをもって足ると解する立場に立つことになる。けだし、繰越しというものを認める以上、そこに抽象的な年次有給休暇請求権というものを想定せざるをえず、しかもその繰越しを認めるわけであるから、当該年度においては現実に有給で休ませることをしなくても労働基準法違反にならないと解すべきことになるからである。そしてこの立場をおしすすめると、抽象的な年次有給休暇請求権を附与し、その繰越しないし蓄積を認めさえすれば、現実に有給で休ませることをいっさいしなくても同法第三九条の違反にはならず、したがって同法第一一九条の罰則の適用もないということにならざるをえないが、その不当なことは何人の目にも明らかであろう。この場合、あるいは労働者側からの繰越しのみは認めてよいではないかという議論があるかもしれない。しかし労働基準法は労働条件の最低限度の基準を設定するものであって、労働者側のイニシアティヴによるものであっても右最低基準を下廻る結果となることを許容するものではないというべきであるから、労働者の側からする繰越しもこれを認めることはできないといわなければならない。けだし、労働者の側からする繰越しであってもこれを認めることは、逆にいえば当該年度においては法定の日数の有給休暇をとらないことを容認することになるわけで、当該年度に関するかぎり労働基準法の定める最低基準を下廻ることを容認する結果となるからである。
 これを要するに、労働基準法上の年次有給休暇の制度は具体的な当該年度において法定の日数を有給で現実に休むことを保障する制度であって、それ以上に出るものでもなく、またそれ以下にとどまるものでもないというべきである。したがって、年次有給休暇請求権の繰越しは、労働基準法上の年次有給休暇制度に関するかぎり、これを認めることができないといわざるをえない。
 そうすると労働基準法上の年次有給休暇については時効ということを考える余地はなく、同法第一一五条の規定が適用されることはないというべきである。