全 情 報

ID番号 01442
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 沖縄米軍基地事件
争点
事案概要  「年次休暇の権利は、満一年暦につき、八時間勤務二〇日の割合で取得するものとする。一暦年中に常用従業員として採用された従業員は、常用従業員として採用された月及びその暦年の残りの各月につき、一二分の二〇の割合で与えられるものとする。」という基本労務契約の規定の適用を受ける在日米軍基地の常用作業員で、かつ年次途中に退職することが予定されていた者が、退職が予定される月までの期間につき、一二分の二〇を越える年次休暇を請求した事例。一審 請求一部認容、二審 請求認容)
参照法条 労働基準法39条1項
体系項目 年休(民事) / 労働契約の終了と年休
裁判年月日 1978年12月19日
裁判所名 福岡高那覇支
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (ネ) 57 
裁判結果 一部変更 一部取消(上告)
出典 労働民例集29巻5・6合併号937頁/時報925号120頁/訟務月報25巻4号960頁/労働判例311号126頁
審級関係 一審/01441/那覇地/昭52. 8.10/昭和50年(ワ)391号
評釈論文
判決理由  ところで右年次休暇に関する規定は、《証拠略》によると、昭和三七年一二月一〇日附属協定六九号により改定されたことが認められるが、その経緯は次のとおりである。
 《証拠略》によると、右改定前の有給休暇制度においては、月例休暇が与えられ、従業員は、一月間に八割以上の勤務をすれば一六時間、四割以上八割未満の勤務の場合は八時間の有給休暇を取得することができ、また未使用の休暇については買上制度も採用されていたこと、右休暇に関する改定は、基地従業員に、国家公務員に準ずる給与制度を適用することに改めた際に行なわれたものであるが、基地従業員をその構成員とする全駐労側は、当初、休暇日数が二四日から二〇日に短縮され、買上制度も廃止されることになるので、労働者にとって不利益になるとして反対し、防衛施設庁側と折衝を続けたが、国家公務員に準ずる給与制度の導入により利益を受けることや、防衛施設庁担当官から「一月一日に在籍していれば、その年の年次休暇二〇日は、無条件に与えられる。」との確認を得たこと、買上制度についても経過措置が設けられたこと等があったので納得したことが各認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
 そこで右年次休暇に関する規定を検討するに、年次休暇を取得する者が、「常用従業員」であることは明らかである。今「常用従業員」が年度中途で退職した場合に、退職者の取得する年次有給休暇の日数について争われているが、中途退職者に関する直接の規定は存しない。そうすると、休暇日数についての一般的規定と解されるA節2前段の規定の解釈によることになるが、右は必ずしも明確な規定とは云い難く、同規定のみから、中途退職者の取得する年次有給休暇日数(つまり在籍期間に応じて比例按分するか否か)を確定することは困難である。
 そこで右に認定した改定の経緯や、関連規定を考慮しつつ検討するに、先ず月例休暇から年次休暇へ移行するに際し、一定期間の勤務ないしは在籍、および一定割合以上の出勤率は要件とされなくなり、「常用従業員」であることが、唯一の年次有給休暇取得の要件となったこと、他方年次有給休暇は、取得した年度内で使用しなければならず、未使用の休暇の買上制度はなくなり、原則として休暇の次年度への繰越しも認められないこと、また右甲第一〇号証により、A節4(休暇の予定表の作成)、5(休暇の承認)の規定を見ると、従業員は、既に在籍した月数を考慮せずに年次有給休暇を使用することができ、従って中途退職者が月割等の按分を越える日数を休暇として使用することは、当然考えられるのに、基本労務契約(右甲第一〇号証はその写)中右のような場合の調整規定はないこと等が明らかであり、以上の諸事情および関連規定に鑑みると、A節2前段の規定は、A節1の規定と併せて、常用従業員(但しA節2中段、後段の規定によって、中途採用者は除外されることになる。)は、一暦年間に使用できる年次休暇八時間勤務として二〇日分を取得することができるとの趣旨に解するのが相当である。
 従って前年度より引き続いて勤務する常用従業員は、一月一日に八時間勤務として二〇日分の年次有給休暇を確定的に取得すると云うべきである。
 右に認定した防衛施設庁担当官の確認も、その趣旨に解することができる。けだし年次有給休暇の取得が按分比例によるとすれば、一月一日在籍の常用従業員は、退職を解除条件として二〇日の年次有給休暇を取得することになり、無条件で取得するとは云えないからである。
 (二)ところで年度中途に採用された常用従業員に関しては、A節2中段、後段の規定があるが、中途退職者に対しても右規定を類推適用して中途退職者の既に取得した年次有給休暇を削減することができるかが問題となる。
 前年度より常用従業員であった者は、前記のとおり既に一暦年中に使用できる年次有給休暇二〇日を確定的に取得しているのであるから、それを削減することは明文の規定によるべきであって、事情の異なる中途採用者に関する規定を類推適用することは妥当でない。また年次有給休暇には、労働者の過去の勤務に対する一種の報償という面もあることは否定できないから、中途退職者を、年次有給休暇について、中途採用者より優遇しても、公平に反するとまでいうことはできない。