全 情 報

ID番号 01480
事件名 就業規則の改正無効確認請求事件
いわゆる事件名 秋北バス事件
争点
事案概要  主任以上の職にある者の五五歳停年制を新設する就業規則の改正に伴い解雇された従業員が、本人の同意のない就業規則の改正には拘束されないから、右解雇は無効であるとして雇用関係の存在確認を求めた事例。(上告棄却、労働者敗訴)
参照法条 労働基準法2条1項,89条,93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 定年制
裁判年月日 1968年12月25日
裁判所名 最高大
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (オ) 145 
裁判結果 棄却
出典 民集22巻13号3459頁/時報542号14頁/タイムズ230号122頁/裁判所時報512号9頁/官報昭和44年1月8日12618号17頁/裁判集民93号1067頁
審級関係 控訴審/00079/仙台高秋田支/昭39.10.26/昭和37年(ネ)65号
評釈論文 可部恒雄・ジュリスト421号92頁/花見忠・昭和43年度重要判例解説〔ジュリスト433号〕170頁/宮島尚史・季刊労働法71号80頁/宮島尚史・判例タイムズ236号45頁/宮島尚史・労働判例百選<第三版>〔別冊ジュリスト45号〕58頁/宮島尚史・労働法学研究会報796号1頁/近藤富士雄・労働法令通信22巻2号6頁/窪田隼人・立命館法学80号116頁/慶谷淑夫・ひろば22巻3号18頁/山本吉人・ジュリスト419号69頁/山本博・労働法律旬報698号13頁/山本武・自治研修112号62頁/秋田成就・労働法の判例〔ジュリスト増刊〕122頁/石川吉右衛門・色川,石川編・最高裁労働判例批評〔2〕民事編487頁/川口実・日本労働法学会誌34号91頁/川口実・法学研究〔慶応大学〕43巻4号1頁/川崎武夫・判例評論124号27頁/倉地康孝・経営法曹会議編・最高裁労働判例1巻416頁/野村平爾・月刊労働問題131号68頁
判決理由  元来、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」(労働基準法二条一項)が、多数の労働者を使用する近代企業においては、労働条件は、経営上の要請に基づき、統一的かつ画一的に決定され、労働者は、経営主体が定める契約内容の定型に従って、附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされるのが実情であり、この労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている(民法九二条参照)ものということができる。
 (中 略)
 右に説示したように、就業規則は、当該事業場内での社会的規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに至っているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものというべきである。
 (中 略)
 おもうに、新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきであり、これに対する不服は、団体交渉等の正当な手続による改善にまつほかはない。そして、新たな停年制の採用のごときについても、それが労働者にとって不利益な変更といえるかどうかは暫くおき、その理を異にするものではない。
 (中 略)
 およそ停年制は、一般に、老年労働者にあっては当該業種又は職種に要求される労働の適格性が逓減するにかかわらず、給与が却って逓増するところから、人事の刷新・経営の改善等、企業の組織および運営の適正化のために行なわれるものであって、一般的にいって、不合理な制度ということはできず、本件就業規則についても、新たに設けられた五五歳という停年は、わが国産業界の実情に照らし、かつ、被上告会社の一般職種の労働者の停年が五〇歳と定められているのとの比較権衡からいっても、低きに失するものとはいえない。しかも、本件就業規則条項は、同規則五五条の規定に徴すれば、停年に達したことによって自動的に退職するいわゆる「停年退職」制を定めたものではなく、停年に達したことを理由として解雇するいわゆる「停年解雇」制を定めたものと解すべきであり、同条項に基づく解雇は、労働基準法二〇条所定の解雇の制限に服すべきものである。さらに、本件就業規則条項には、必ずしも十分とはいえないにしても、再雇用の特則が設けられ、同条項を一律に適用することによって生ずる苛酷な結果を緩和する途が開かれているのである。しかも、原審の確定した事実によれば、現に上告人に対しても、被上告会社より、その解雇後引き続き嘱託として、採用する旨の再雇用の意思表示がされており、また、上告人ら中堅幹部をもって組織する「輪心会」の会員の多くは、本件就業規則条項の制定後、同条項は、後進に道を譲るためのやむを得ないものであるとして、これを認めている、というのである。
 以上の事実を総合考較すれば、本件就業規則条項は、決して不合理なものということはできず、同条項制定後直ちに同条項の適用によって解雇されることになる労働者に対する関係において、被上告会社がかような規定を設けたことをもって、信義則違反ないし権利濫用と認めることもできないから、上告人は、本件就業規則条項の適用を拒否することができないものといわなければならない。