全 情 報

ID番号 01504
事件名 給料請求事件
いわゆる事件名 タケダシステム事件
争点
事案概要  年間二四日有給の生理休暇を定めていた就業規則の規定が、月二日基本給の六八%補償に変更されたことにより取得生理休暇日について賃金を減額された従業員らが、その減額分の支払および年間二四日の生理休暇が一〇〇パーセント有給であることの確認を請求した事例。(請求一部棄却、一部却下)
参照法条 労働基準法68条,89条,93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 生理休暇
裁判年月日 1976年11月12日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ワ) 2644 
裁判結果 一部棄却 一部却下(控訴)
出典 労働民例集27巻6号635頁/時報842号114頁
審級関係 上告審/01519/最高二小/昭58.11.25/昭和55年(オ)379号
評釈論文 郵政省人事局労働判例研究会・官公労働31巻7号46頁
判決理由  〔就業規則―就業規則の一方的不利益変更―生理休暇〕
 「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課す―ることは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきであり、これに対する不服は、団体交渉等の正当な手続による改善にまつほかはない。」(最判昭和四三年一二月二五日民集二二巻三四五九頁)
 〔就業規則―就業規則の一方的不利益変更―生理休暇〕
 労基法は生理休暇の自由を保障するだけで、これを有給とするか無給とするかは労使の自由な決定に任せているが、有給とすれば生理休暇をとりやすくし、一〇〇パーセント有給とすれば女性保護の面からは最も望ましいものであることはいうまでもないが、反面、右支給率を高めれば高めるほど、生理でありながら休暇を必要としない程度のため就労する女子との間に均衡を欠く面があり、また濫用の弊を生じやすいことは明らかである。逆にこれを無給とすれば、生理休暇をとりにくくなり、休養を必要としながらも無理な就業をして法の要請が達せられない弊害も考えられる。その調和をどこに求めるかが生理休暇手当を設ける場合に考慮すべき最重点であることはいうまでもないが、生理休暇手当は広い意味で労働条件の一ではあっても労働の対償としての賃金の性格を有するものではないから、一たび与えたものは労働者の同意のない限り絶対に奪いえないという性質のものではなく、労働協約に牴触しない以上、生理休暇手当支給を定める就業規則の規定を右の調和を害しない範囲で変更することも可能というべきである。
 (1)新規定は、旧規定にもとづく運用が生理休暇に基本給一〇〇パーセント支給としていたのを六八パーセント支給と変更するものであるが、六八パーセントという割合自体についてみると、生理による休養をやめてまでも就労を余儀なくされるほど低いものではないし、就労しない者に対する手当としても相当といって差支えない。逆に、一〇〇パーセント支給という建前も、生理でありながら休暇をとらない人との均衡や濫用という面からみて必ずしも合理的であるとはいえない。
 (2)《証拠略》によれば、被告会社の昭和四九年度の基本給は前年度に比し平均約三〇パーセント増加したことが認められるが、これによれば昭和四九年度の基本給の六八パーセントに該る金額は前年度の基本給の約八八パーセントに該る額となり、したがって前年度に比し生理休暇手当は約一二パーセント程度の減額となる計算である。
 (中 略)
 基本給に対する割合が就業規則上明記されれば、次年度以降は基本給の上昇に伴い当然生理休暇手当も上昇していくことは明らかであり、基本給の大幅な上昇を考慮すれば一時的に約一二パーセント前後減額したからといって、既得の利益を奪ったとまで評することはできないのである。
 (3)旧規定において生理休暇有給日数を年間二四日としていたのを新規定において月二日と変更したことは、月三日以上の生理休暇を必要とする場合には不利益になるといえないこともないが、逆に一回に数日有給の休暇をとった場合には他の生理の際に無給になることは避けられないところであって年間を通ずればいずれが有利か不利かにわかに断じがたいし、通常は一回に二日休暇をとれば就労上支障はないと考えられるから、右変更は合理性がないとはいえない。
 (4)被告会社においては、生理休暇をとった場合にも出勤率加給及び賞与の算定にあたって欠勤、遅刻、早退とみなさない取扱いであることは当事者間に争いがないところであるから、生理休暇をとることについて被告会社は充分配慮していることがうかがえる。
 (中 略)
 右3に判示したところにより、被告が就業規則の旧規定を新規定に変更したことについては合理的な根拠があり、新規定の内容も合理的なものと認められるから、原告らの同意がなくても、原告らに対しその効力を及ぼすものといわなければならない。