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ID番号 01508
事件名 勤務時間確認請求事件
いわゆる事件名 北九州市事件
争点
事案概要  五市の合併によって発足した新市の現業職員で、旧市の職員であった者が、新市による勤務時間に関する就業規則の規定の変更に反対し、勤務時間が旧市の改正前の就業規則に定められた勤務時間であることの確認を求めた事例。(請求棄却)
参照法条 労働基準法89条1項,93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 労働時間・休日
裁判年月日 1978年2月28日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (行ウ) 6 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集29巻1号111頁/時報897号100頁/労働判例294号30頁/訟務月報24巻2号368頁/労経速報995号3頁
審級関係
評釈論文 岡崎瑞栄・地方公務員月報181号53頁/和田肇・ジュリスト687号131頁
判決理由  以上を前提にして現業地方公務員の労働条件を定める就業規則の一方的な不利益変更の可否について検討するに、現業地方公務員のばあいでも民間労働者のばあいにおけると同様、一旦就業規則で定められた労働条件の内容は十分に尊重されるべきであるから、現業地方公務員の地方公共団体における勤務関係が公法関係であるとの一事をもって当局による労働条件(を定める就業規則)の一方的な不利益変更を是認しうるものではない。しかしながら、当該地方公共団体の行政事情、特に職員の労働条件変更の必要性・緊急性、変更内容(不利益性)の程度、団体交渉の経緯等の諸事情によっては、一方的な不利益変更を有効視できるだけの合理性が認められる場合も考えられる。もちろんその際の合理性の判断については特に慎重を期すべきであって安易にこれを容認するわけにはいかないが、反面現業地方公務員にあってはいかに変更の必要性、合理性の程度が高くても職員の同意がない限り一切就業規則に定めた労働条件のいわゆる不利益変更は許されないと解さなければならないわけではない。
 (中 略)
 さて右の認定事実によると、昭和四三年改正は合併を契機に被告市に生じた労務職員の勤務時間の不統一という特殊事情を原因とする行政能率の悪化、人事異動の困難さ等の現象を排除し、一つの市としてのまとまりのある能率的な行政運営ないし市民サービスの向上を目途として行なわれたものであり、労務職員としてはあるいは直接に勤務時間が延長され、あるいは勤務時間そのものは短縮されたが、超勤手当算出の基礎となる標準的勤務時間の延長により、経済的な不利益を蒙むる結果も生じたが、被告市としても勤務時間の延長を必要最少限にとどめ、しかもベースアップなどによって極力経済的不利益を回復させる手段を講じていたこと及び改正内容についても被告と同規模の他の都市、国、民間企業等の労働条件を参考にして、その平均的水準のものにまで変更したにすぎないこと等が指摘できるのである。なお改正の際の団体交渉については、前記認定によれば、団交時間が不足していたというよりも勤務時間に関して市労と市当局間に基本的な対立(三八時間体制と四一時間体制)があって妥協の余地のないことが明らかとなっていたと推認されるものであり、以上にみた就業規則変更の必要性、とくに被告の合併に基づく勤務時間統一の必要性・緊急性を考慮に容れると、本件においては、被告側が十分な団交義務を尽さなかったとまでは断定しえないものである。
 以上によれば、本件の昭和四三年改正は五市合併という止むを得ざる特別な事態を背景に行なわれたものであって、その合理性も十分これを認めることができるものというべきである。
 よって右昭和四三年改正は、市労もしくは原告らを含む個個の被適用職員らの同意がないにも拘らず有効であったと解するのが相当である。