全 情 報

ID番号 01624
事件名 文書提出命令に対する即時抗告事件
いわゆる事件名 丸互タクシー事件
争点
事案概要  基本給、手当などを本案訴訟で請求する場合、賃金台帳が民事訴訟法三一二条三号後段の文書にあたるか否かが争われた事例。(肯定)
参照法条 労働基準法108条,109条
民事訴訟法(平成8年改正前)312条3号
体系項目 雑則(民事) / 賃金台帳
裁判年月日 1973年2月1日
裁判所名 福岡高
裁判形式 決定
事件番号 昭和47年 (ラ) 123 
裁判結果 棄却
出典 下級民集24巻1~4合併号74頁/労働民例集24巻1・2合併号26頁/時報701号83頁/タイムズ298号243頁
審級関係 一審/01623/大分地/昭47.11.30/昭和47年(モ)339号
評釈論文
判決理由  賃金台帳が民訴法三一二条三号前段の文書にあたるかどうかについて検討するに、同条の挙証者の利益のために作成された文書とは、身分証明書、領収書、遺言状などのように、当該文書により直接挙証者の地位や権利権限を証明しまたは基礎づけるために作成されたものを指すものと解するのが相当である。
 ところで、賃金台帳は、使用者が各労働者について、労働日数、労働時間数、基本給、手当など賃金計算の基礎となる事項および賃金の額を記載する台帳であり、本来使用者が労働の実績と支払賃金との関係を明確に記録し、その額を把握するための資料とすることを目的として作成されるものであって、労働者の地位や権利権限を証明しまたは基礎づけるために作成されるものということはできない。
 もっとも、労働基準法一〇八条、一〇九条は、使用者に賃金台帳の作成保存の義務を課し、これによって賃金台帳は、国の監督機関において労働者の労働条件を随時たやすく把握するための資料としての役割を果し、その結果、労働者の利益に資する面のあることは否定し得ないが、右のような利益が前記法条にいう挙証者の利益にあたらないことは明らかである。
 そうすると、賃金台帳は民訴法三一二条三号前段の文書にはあたらないものというべきである。
 つぎに、賃金台帳が民訴法三一二条三号後段の文書にあたるかどうかについて検討するに、同条の挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作成された文書とは、契約書などのように両者間の法律関係そのものを記載した文書に限らず、その法律関係に関係のある事項を記載した文書であれば足り、所持者が単独で作成したか挙証者と共同で作成したか、また誰の利益のために作成したかを問わないものと解するのを相当とする。もっともそのような文書であっても、専ら所持者の内部的な自己使用の目的で作成された文書、たとえば日記帳などはこれにあたらないと解する。
 これを本件についてみるに、賃金台帳は、抗告人と相手方らとの間の雇用関係そのものを記載した文書ではないが、右雇用関係に関係のある相手方らの基本給、手当など相手方らが本案訴訟で請求する賃金請求権の基礎となる事項が記載されているものであるから、抗告人が単独で作成するものとはいえ、抗告人と相手方らの間の法律関係に関係のある事項を記載した文書ということができる。
 もっとも、前記のとおり、賃金台帳は、本来使用者が労働者に対する支払賃金の額を明確に把握するため、すなわち使用者の便宜のために作成されるものではあるが、他面、前述のように、行政上の監督のためや労使紛争の予防解決のためにも作成されるものであって、日記帳などのように専ら作成者の内部的な自己使用のためにのみ作成される文書とは異なるものである。
 そうすると、賃金台帳は民訴法三一二条三号後段の文書にあたるものというべきである。