全 情 報

ID番号 01673
事件名 出勤停止処分無効確認請求および従業員地位確認請求事件
いわゆる事件名 ダイハツ工業事件
争点
事案概要  沖縄返還協定阻止闘争において逮捕・勾留され、不起訴処分で釈放されるまで約三週間にわたって欠勤した労働者につき、(1)欠勤についての事情聴取に応じずかつ自宅待機命令にも従わずに強行就労しようとしたことを理由とする第一次出勤停止処分の効力、(2)第一次出勤停止の不当性を訴えるビラを出勤停止期間中に会社構内で配布したことを理由とする第二次出勤停止処分の効力、(3)第二次出勤停止明けに出された無期限の自宅待機命令を不満として会社に押しかけて強行就労しようとして警士に暴行を加え、傷害を負わせたことを理由とする懲戒解雇の効力、がそれぞれ争われた事例。(請求一部認容)
参照法条 労働基準法115条
民法147条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 政治活動
雑則(民事) / 時効
裁判年月日 1977年3月24日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ワ) 1044 
昭和48年 (ワ) 2207 
裁判結果 一部認容
出典
審級関係
評釈論文 辻村昌昭・労働判例279号11頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―政治活動〕
 一般の企業体である被告の場合について案ずるに、その就業規則によって規制される政治活動は、施設管理権の合理的な行使の範囲内のものとして、それが喧噪、強要にわたるなど他の従業員の作業あるいは休養を妨げて企業秩序をびん乱し、業務の正常な運営に支障を及ぼし、または、かような結果を招くおそれが著しいものに限られるというべきである。
 (四)本件において、原告X1がAに対して購読を勧誘した「赤旗」が共産党中央委員会発行の同党機関紙であることは当事者間に争いがなく、かつ、同紙が共産党の主義、主張を載せた文書であることは公知の事実であるから、右「赤旗」の購読を勧誘する行為は、形式的には特定の政党の勢力拡張を目的とした「宣伝」にあたるということができるであろう。しかしながら、前認定のような原告X1の勧誘行為の意図、態様、時期等から推せば、右勧誘行為は、共産党の主義、主張に同調を強要したり、入党を勧めたりするなど同党の勢分拡大のための積極的行動を伴なったものとも窺えず、単に休憩時間中における数分間程度の会話にとどまったものと認めざるをえないから、これが被告の職場秩序を乱したり、生産活動を阻害したりするものでなかったことはもちろん、そのおそれの著しいものでなかったことも明らかというほかはなく、同行為をもって、就業規則第一一条一号の「宣伝」に該当するということはできないと解すべきである。
 四 以上の次第であるから、原告X1の勧誘行為についても、これが就業規則に該当する行為とは認められないから、所詮、被告は右規則の適用を誤ったものといわざるをえず、したがって、原告らに対する本件懲戒処分は、いずれも処分理由がなく、無効のものといわなければならない。
 五 原告らに対する本件懲戒処分がいずれも無効たるを免れないことは上述のとおり、また、原告X1、同X2各本人の供述に徴すれば、被告が昭和四七年八月二九日厚木事業所内の掲示板に本件懲戒処分を告示したことが認められるから、原告らがそれぞれ、被告の少くとも過失に基づく本件懲戒処分、ひいて、その掲示により右処分が従業員に周知させられたために、精神上の苦痛を蒙ったことは容易に推認されるところである。しかして、本件に顕われた諸般の事情を斟酌すると、原告らに対する慰藉料は各金三万円とするのが相当である。
〔雑則―時効〕
 ところで、労働契約上の地位確認の訴は、当該契約における具体的な権利関係を包含した包括的法律関係の存在の確認を求める訴であり、その包括する種々具体的な権利関係それ自体を訴訟物としているものでないことは明らかである。しかしながら、労働契約上の地位確認の訴は包括的ではあるが、その契約関係から生ずる全ての権利の主張ないし履行を求める意思を含み、この意味でこれらの権利実現の手段としての性質を有するものというべきであって、ここに労働契約上の地位確認の訴を認める実益があるのである。とりわけ、労務提供の対価として発生する賃金債権は、労働契約上、労働者にとって最も重要な権利であって、労働者の提起する労働契約上の地位確認の訴は、賃金請求権確保のために提起されるものと言っても過言ではない。そして、右地位確認の訴提起後に発生する賃金債権については、一層その色彩が強いものといえよう。したがって、労働契約上の地位確認の訴には賃金債権について裁判上の請求に準じて時効が中断するものと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、前記のとおり、原告の請求にかかる賃金、一時金債権のうち、被告が時効消滅したと主張する債権部分は、右確認の訴の提起により時効が中断していると解すべきである。