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ID番号 01736
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 西日本鉄道事件
争点
事案概要  現金を取扱う私鉄企業の従業員が、脱靴を伴う所持品検査を拒否したことを理由に懲戒解雇されたのに対し、右懲戒解雇は解雇権の濫用に当り無効であるとして、その無効確認を求めた事例。(上告棄却、労働者敗訴)
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 所持品検査
裁判年月日 1968年8月2日
裁判所名 最高二小
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (オ) 740 
裁判結果 棄却
出典 民集22巻8号1603頁/時報528号82頁/タイムズ226号82頁/裁判集民92号37頁
審級関係 控訴審/01725/福岡高/昭42. 2.28/昭和40年(ネ)33号
評釈論文 阿久沢亀夫・法学研究〔慶応大学〕42巻4号89頁/可部恒雄・ジュリスト410号67頁/可部恒雄・法曹時報21巻4号94頁/千種秀夫・色川,石川編・最高裁労働判例批評〔2〕民事編466頁/浅井清信・民商法雑誌60巻4号550頁/村田利雄・経営法曹会議編・最高裁労働判例1巻398頁/平野毅・労働判例百選<第三版>〔別冊ジュリスト45号〕90頁/木村五郎・判例評論121号35頁
判決理由  おもうに、使用者がその企業の従業員に対して金品の不正隠匿の摘発・防止のために行なう、いわゆる所持品検査は、被検査者の基本的人権に関する問題であって、その性質上つねに人権侵害のおそれを伴うものであるから、たとえ、それが企業の経営・維持にとって必要かつ効果的な措置であり、他の同種の企業において多く行なわれるところであるとしても、また、それが労働基準法所定の手続を経て作成・変更された就業規則の条項に基づいて行なわれ、これについて従業員組合または当該職場従業員の過半数の同意があるとしても、そのことの故をもって、当然に適法視されうるものではない。
 (中 略)
 問題は、その検査の方法ないし程度であって、所持品検査は、これを必要とする合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として、職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければならない。そして、このようなものとしての所持品検査が、就業規則その他、明示の根拠に基づいて行なわれるときは、他にそれに代わるべき措置をとりうる余地が絶無でないとしても、従業員は、個別的な場合にその方法や程度が妥当を欠く等、特段の事情がないかぎり、検査を受忍すべき義務があり、かく解しても所論憲法の条項に反するものでないことは、昭和二六年四月四日大法廷決定(民集五巻五号二一四頁)の趣旨に徴して明らかである。
 (中 略)
 そして、脱靴を伴う靴の中の検査は、所論のごとく、ほんらい身体検査の範疇に属すべきものであるとしても、右の事実関係のもとにおいては、就業規則八条所定の所持品検査には、このような脱靴を伴う靴の中の検査も含まれるものと解して妨げなく、上告人が検査を受けた本件の具体的場合において、その方法や程度が妥当を欠いたとすべき事情の認められないこと前述のとおりである以上、上告人がこれを拒否したことは、右条項に違反するものというほかはない。また就業規則五八条三号にいう「職務上の指示」について、所論のごとく脱靴を伴う所持品検査を受けるべき旨の指示をとくに除外する合理的な根拠は見出し難い。そして、懲戒解雇処分にいたるまでの経緯、情状等に関する原審確定の事実に徴すれば、上告人の脱靴の拒否が就業規則五八条三号所定の懲戒解雇事由に該当するとした原審の判断も、所論の違法をおかしたものとは認めえない。