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ID番号 01797
事件名 賃金請求上告事件
いわゆる事件名 神戸製鋼所事件
争点
事案概要  私品の持込検査を定める就業規則に関し、持込みの許されない物品を所持していることを疑うに足りる相当な事由がある場合に限り許されるとして、本件点検拒否は相当であり、検査にともなう遅刻分の賃金カットは許されないとした事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 所持品検査
裁判年月日 1975年3月12日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (ツ) 36 
裁判結果 棄却
出典 高裁民集28巻1号47頁/時報781号107頁/タイムズ327号225頁
審級関係 控訴審/神戸地/昭47.12.25/昭和40年(レ)56号
評釈論文 山本吉人・労働判例226号39頁
判決理由  規則三〇条、並びに規程は所論のごとく職場内における秩序維持、規律の確立、盗難予防等のために規定されたものであり、従業員の行動を規制するものであるが、右規則は法令又は当該事業場について適用される労働協約に反しない限り法的規範としての拘束力を有するものと解すべきであるとともに、規則、規程の運用に当っては不当に従業員の自由を制限することのないよう合理的に解釈運用されるべきである。このような見地において、規程一六条一項を検討してみると、同項に書籍・新聞・雑誌等が列挙されているとはいえ、その前に「作業衣・傘・洗面用具など日常携帯品」との定めがあり、その後には、「軽易な運動用具その他これに類するもの」との定めがあることを考えあわせると、右書籍・新聞・雑誌も、その前後に挙げられた諸物件と著しく均衡を失しない程度のものに限定する必要があり、これを新聞について考えてみると、同一の新聞を多数携帯しているとか、あるいは、別個の新聞であっても、若しこれを構内で配布する目的で持ち込もうとするような場合は、右規程一六条一項の除外例には含まれないと解すべきである。
 (中 略)
 規則三〇条三項は必要ある場合は守衛の請求により携帯品を点検することができることを定め、規程一八条も守衛が必要と認めた場合はその指示に従い点検を受けなければならないと規定しており、これに基いて、上告人は、持込を許されない物件を携帯していないかどうかにつき、口頭による質問、任意の提示を求める行為をすることは当然であると主張するのであるが、労使双方の利害を合理的かつ公正に調整することを基本理念とする以上、たとえ論旨のいう方法による点検であっても、携帯物件の形状、数量その他諸般の状況から見て持込の許されない物品を所持していることを疑うに足りる相当な事由がある場合に限りこれをなしうるものと解すべきであって、単なる会社側の見込だけによって所持品検査をすることは、思想信条の調査にもつながり、人の自由を制限する虞のあるものとして許すべきではない。
 本件の場合、原判決が適法に確定した事実によると、被上告人らはアカハタ四ないし五部をはだかのまま四つ折にして小脇にかかえて入場しようとしたというのであるが、そのような外観だけから、果してそのかかえている新聞がすべて同種のものであると判るか否かにも疑問があり、また四部ないし五部という数量は、先きに掲げた持込許容の最高限であると見るのが相当である。更に、工場内の文書配布禁止(規則七〇条一一号)の効果を右点検の方法によって確保するのにも限界がなければならない。したがって被上告人らが右点検を拒否したことは相当の理由があるというべきであって、原判決の判断は結局正当として維持すべきであり、所論は採用できない。