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ID番号 01807
事件名 解雇無効確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 笹谷タクシー事件
争点
事案概要  勤務終了後、同僚の飲酒運転をそそのかし人身事故を誘発させたとして、労働協約、就業規則に基づいて、懲戒解雇されたタクシー運転手が、雇用契約上の権利を有することの確認、賃金の支払を請求した事例。(一審 請求棄却、当審 控訴棄却)
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務外非行
裁判年月日 1975年10月16日
裁判所名 仙台高
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ネ) 15 
裁判結果 (上告)
出典 労働民例集26巻5号847頁
審級関係 上告審/01830/最高一小/昭53.11.30/昭和51年(オ)155号
評釈論文
判決理由  企業秩序の維持確保は、通常は従業員の職場内又は職務遂行に関係のある行為を対象としてこれを規制することにより達成しうるものであるが、従業員の職務外でなされた職務遂行に関係のない行為であっても、企業秩序に関連を有し、企業の社会的評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められる場合には、これを規制することが許されないと断ずることはできず、とくに被控訴人のようにタクシー営業を目的とする企業においては、常時顧客と接するものであり、安心して乗ることのできるタクシーであることが顧客から期待されているのであるから、職場外でなされた職務遂行に関係のない行為であっても、こと自動車運転に関する限り、他の企業と比較してより厳しい規制がなされうる合理的な理由があるものというべきである。本件についてみるに、控訴人の行為は職場外でなされた職務遂行に関係のないものではあるが、先輩の運転手として指導し、酒酔い運転をきびしく注意すべき地位にありながら、右Aの酒酔い運転を容認し慫慂したものであって、その違法性の程度は同人とえらぶところがないものというべきである。控訴人が刑事処分を受けておらず、右Aも酒酔い運転について刑事処分を受けておらず、また、本件について新聞等に報道されなかったことを勘案しても、被控訴会社の社会的評価を低下毀損するおそれがあると客観的に認めることができるから、就業規則四八条一〇号の準用により懲戒解雇事由に該当するものというべきである。
 (中 略)
 懲戒事由に当る行為をした従業員に対し懲戒権者がいかなる処分を選択すべきかについては、その具体的基準を定めた法律の規定はなく、また、被控訴会社の就業規則にもその定めがないことは、引用にかかる原審認定のとおりであるから、右選択については懲戒権者の裁量が認められているものと解すべきである。もとよりその裁量は、恣意にわたることを得ず、当該行為との対比において甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであってはならないことも原審認定のとおりであるが、懲戒権者の処分選択が右のような限度をこえるものとして違法性を有しない限り、それは懲戒権者の裁量の範囲内にあるものとしてその効力を否定することはできないものというべきである。本件についてみるに、控訴人の行為は交通三悪の一つである酒酔い運転に加担したもので、違法性の程度は大きく、単なる偶発的な情状酌量の余地ある軽微なものではなく、他の従業員及び社会に与える影響、右半沢との均衡その他諸般の事情を斟酌し、さらに懲戒解雇処分の選択にあたって特別に慎重な配慮を要することを勘案しても、なお、被控訴人が控訴人に対し懲戒解雇処分を選択した判断が合理性を欠くものと断定することはできず、右処分を裁量の範囲をこえた違法なものとすることはできない。