全 情 報

ID番号 01833
事件名 懲戒免職処分取消請求事件
いわゆる事件名 全逓東北地本事件
争点
事案概要  当局の再三の警告を無視して、酒田郵便局等においてストライキを実施させ、仙台郵便局庁舎における集団的示威行進やビラ貼りを指導した等を理由に、全逓東北地本執行委員長であった郵政職員に対してなされた懲戒免職処分の取消が求められた事例。
参照法条 公共企業体等労働関係法17条1項
国家公務員法82条,99条,101条1項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1978年7月18日
裁判所名 最高三小
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (行ツ) 7 
裁判結果 棄却
出典 民集32巻5号1030頁/時報906号19頁/労働判例302号33頁/裁判所時報748号3頁/訟務月報24巻8号1646頁/裁判集民124号453頁
審級関係 控訴審/03491/東京高/昭50.10.30/昭和49年(行コ)54号
評釈論文 岸井貞男・昭和53年度重要判例解説〔ジュリスト693号〕223頁/吉田洋一・地方公務員月報185号47頁/玉田勝也・公企労研究38号99頁/佐藤繁・ジュリスト682号77頁/坂本重雄・判例評論243号36頁/田村和之・民商法雑誌80巻5号632頁/文部省初等中等教育局地方課・教育委員会月報342号72頁/平井二郎・公務員関係判例研究21号1頁/林修三・時の法令1037号48頁/林修三・時の法令1038頁53頁
判決理由  一 公共企業体等の職員につき争議行為を禁止した公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは、既に当裁判所の判例とするところである(昭和四四年(あ)第二五七一号同五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁)。したがって、郵政職員が禁止を犯して争議行為を行った場合には、法令遵守義務を定めた国家公務員法(以下「国公法」という。)九八条一項、信用失墜行為避止義務を定めた同法九九条、職務専念義務を定めた同法一〇一条一項等に違反したものとして同法八二条一号に該当し、更に行為の態様によっては同条三号にも該当することがあり、懲戒処分の対象とされることを免れないと解すべきである。この場合に、公労法三条一項が労働組合法(以下「労組法」という。)七条一号本文の適用を除外していないことを根拠として、公労法一七条一項違反の争議行為のうちにもなお労組法七条一号本文の「正当な行為」にあたるものと然らざるものとがあるとし、右「正当な行為」にあたる争議行為については国公法八二条による懲戒処分をすることができないというような解釈は、これを採用することができない。けだし、公労法三条一項によれば、公共企業体等の職員に関する労働関係については、公労法の定めるところにより、同法に定めのないものについてのみ労組法の定めるところによるべきものであるところ、右職員の争議行為については公労法一七条一項にいっさいの行為を禁止する旨の定めがあるので、その争議行為について更に労組法七条一号本文を適用する余地はないというべきであるからである。公労法三条一項が労組法の右規定の適用を除外していないのは、争議行為以外の職員の組合活動については公労法に定めがないので、これに労組法の右規定を適用して、その正当なものに対する不利益な取扱を禁止するためであって、公労法一七条一項違反の争議行為についてまで「正当な行為」なるものを認める意味をもつものではない。また、労働者の争議行為は集団的行動であるが、その集団性のゆえに、参加者個人の行為としての面が当然に失われるものではない以上、違法な争議行為に参加して服務上の規律に違反した者が懲戒責任を免れえないことも、多言を要しないところである。
 (中 略)
 三 ところで、国家公務員に懲戒事由がある場合において懲戒権者が裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したと認められるものでない限り、違法とならないことは、既に当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和四七年(行ツ)第五二号同五二年一二月二〇日第三小法廷判決・裁判所時報七三〇号四頁)。
 本件についてみると、酒田局、横手局及び仙台局におけるストライキは、その主目的が賃上げ等の経済的要求にあったとしても、公共性の強い郵便局の職場全体で大規模に、しかも当局の再三の警告を無視して行われたものであり、それによって生じた業務阻害の結果も、軽視することができない。また、その他の行為のうち特に仙台郵政局において多数組合員が集団交渉を要求して庁舎内に立ち入り集団示威行進や坐込みをした行為は、右集団交渉の要求自体公労法の定める団体交渉の手続きを無視した不当なものであるばかりでなく、その態様が著しく粗暴で喧騒にわたっており、それによって業務運営その他に及ぼした影響も深刻なものであったことが推認されるのであるから、組合における上告人の地位にかんがみれば、これらの行為に関する上告人の責任は重大であるといわなければならない。これに加え、原判決が適法に確定したところによれば、上告人は過去において七回停職処分を受けた経歴を有するというのであって、更に本件のような行為を繰り返したことは、全体の奉仕者としての自覚と責任の欠如を示すものとみられても、やむをえないところである。もっとも、昭和四〇年春闘によって懲戒処分を受けた全逓各地方本部の執行委員長のうちには、上告人より過去の処分歴の多い者がいたにもかかわらず、停職一〇月ないし一年の処分を受けたにとどまり、免職処分を受けたのは上告人のみであったことが明らかであるけれども、原審の認定するところによれば、他の地方本部執行委員長に対する処分においては、同年三月一七日及び四月二三日の統一ストライキを実践指導したことが処分理由となっており、仙台郵政局で行われたようなステッカー貼付、庁舎内集団示威行進及び坐込み等についてまで責任を問われているものではないというのであるから、単純に処分の結果のみを比較してその軽重を論ずることは、相当でない。
 このような上告人の本件各行為の性質及び態様等諸般の事情を考慮すれば、右行為のうちに全逓本部からの指令ないし指導に従ったものがあることを斟酌しても、なお、本件免職処分が社会観念上著しく妥当性を欠き、懲戒権者に委された裁量権の範囲を超えたものということはできない。この点に関する原審の認定判断は、正当である。