全 情 報

ID番号 01838
事件名 従業員位保全仮処分事件
いわゆる事件名 エヒメ合板工業事件
争点
事案概要  残業の申告制から指名制への変更を申し渡し、「会社に協力的でない者には残業を頼まない」旨を発言した係長に送迎バス内で暴言を吐き、あるいは自己らが所属していた組合を非難・中傷していた他組合員に暴行を加えて懲戒解雇に処せられた労働者が、従業員たる仮の地位の保全を求めた事例。(申請認容)
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
裁判年月日 1978年4月10日
裁判所名 松山地
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (ヨ) 61 
裁判結果 認容
出典 労働判例306号53頁
審級関係
評釈論文
判決理由  前認定事実によりまずAに対する債権者繁の言動についてみるに、Aが切削係の従業員に告げた残業に関する指名制への変更は右従業員らにとっては重要な労働条件の変更であり、とりわけ前日から争議に入った分会員にとっては、右指名制が同人らに不利益に取扱われはしないかと危惧するのは至極もっともなことであり、加えて、Aは「会社に協力的でない者には依頼しない」などと言ったのであるから、分会員の不安が一層募ったであろうことは推測に難くない。かかる事情のもとにBとAとの口論が起こったこと、またその内容から見て、BはAに対する言動がその場所、措辞において適切であったか否かは別として、Aの右発言に抗議し、釈明要求をしているものであって、職制たるAを中傷、誹謗し、当然服すべき職制の指示に反抗したものではなく、就業規則一一一条八号に当たらないことは明らかであり、右言動はバスを運転中(業務遂行中)のAに対してなされたものであるが、その時間は短かく、この間Aも運転をつづけていたもので、バスの運行にさしたる障害や危険を及ぼしていないことと、右Bの言動の動機、目的を併せ考えれば、右事実をもって右規則一一一条七号に該当するともいい難い。
 2 債務者は本件懲戒解雇につき適用した就業規則の条号として一一一条一三号(会社の信用、体面又は名誉を著しく失うような行為を行った者)を挙げるが、これは対外的信用等の失墜をいうものであるところ、前三の認定事実のうち、これに関して検討の対象となるのは6の事実のみである。しかしこれとても警察の取調べは前認定の程度であり、その段階で本件解雇処分がなされているものである。そしてその後さらに進んで捜査ないし訴追に関する処分がなされたことを認めうる証拠はなく、他方後に認定するごとく、債務者会社内ではこれまでも、犯罪捜査を受けないだけで、この種の暴行事件がなかったわけでもないことなどを彼此勘案すると、右事実をもって就業規則一一一条一三号にいう会社の体面又は名誉を著しく失うような行為とは到底いえない。
 3 ついで、債権者両名のCに対する前認定の言動についてみるに、右言動は明らかにCに対する暴行であり、このような行為がその動機、目的が何であれ、これを正当化するものでないことは自明の理であり、かてて加えてCに対し同人がBや分会に対する中傷をしたとの事実の自白を迫ったのも、分会員からの伝聞事実を何らの調査をしないまま軽信し、冷静さを失って右暴行に及んだというのであってみれば、右行為は批判の対象たるを免れまい。
 しかし、前認定の債権者両名のCに対し暴行に及んだ動機、各暴行の程度、それが偶発的なものであること、債権者両名が、既往においてこの種の暴力行為に及んだことを認めうる証拠もないことを総合すると、右暴行をもって(債権者守については、その程度からみて一層)前出就業規則一一一条七号に形式的には該当するとしても、解雇をもって債務者会社から放逐しなければならない程度、性質のものとはいえず、したがって債務者が債権者両名に対してなした本件懲戒解雇処分は極度に相当性を欠くものといわざるをえない。